21 CRY FOR THE MOON
彼を、狂わせるもの
written by cocco
「今日は、ここからでも星が見える〜!!ねぇ、こっちにきてみて!」

煙草の煙で澱んだ部屋の空気を換気しようと、ベランダに掛かるその大きく長いカーテンの片側の端を両手で持つと、まるで徒競走でもしているかのように走りながら開けていく。
左右に掛かるそのカーテンを同じように引くと、今度は窓にかかる鍵をもどかしげに外し、待ちきれんとばかりに、勢い良くその窓を開けた。
暑くもなく、寒くもなく、肌にちょうど良い温度の風が部屋の中を駆け巡る。

こうして、二人で過ごす夜は付き合い始めてからもう何度目のことになるのだろう?

初めのころは、それはもう、二人でいる、ということだけでお互いに緊張して、その照れ隠しの為なのか必要以上に意地を張り合って、他愛も無いことで喧嘩したり。

けれど、今は。

二人の間には穏やかな空気が流れ、緊張は安らぎへ、意地の張り合いは…これは、二人とも本来の性分なのか?偶に、することもあるが。
それでも、そんな言い合いの後には、彼女は照れたように笑い、彼はそんな彼女をみて、勝手に笑みが零れる。

「ねぇ、早くったら!!」

彼は、やれやれといったふうに、ソファへ深く沈めていた腰をゆっくりと立ち上げる。
仕方ないといった態度をとってみるものの、心の中ではそんなふうに彼女に振り回されて何にも例えようがない喜びを噛み締めている自分に、ベランダから見えないよう苦笑する。
ベランダでこれ以上ないほどに首を上に向けて、暗闇の中の光を追う彼女の表情に目を細め、その薄く無防備に開いた唇に、そっと吐息を合わせると、柵に掛けているその小さな両手と背中を後ろから包みこんだ。

彼の暖かさが、その手に、その背中に。
耳元にかかる、微かな煙草の香りと熱さを含んだ、その空気に。
思わず頬の温度が上昇して、伸ばしていた首を下へと向けてしまう。
そんな、彼女に彼が

「…月が、きれいだな。」

と、右の耳元へ湿り気を帯びた息を吹きかける。
彼女の弱点は、既に彼にお見通しか。
その熱い空気に彼女は少し身体を揺らすと、彼の笑ったような空気がふっと、その耳元を通り過ぎる。

「欲しいか?」

その一言に、その耳と首筋に伝う息の熱さに、彼女の身体の細胞はまるでケーキを目の前にした子供の如く、うるさく騒ぎ出す。
数ヶ月前は、そんな台詞を耳にしただけで身体全体が強張っていたのに、今はどうだろう?
こんな感情を芽生えさせた彼に舌打ちしたくなりながらも、反面、この感情を教えてくれた彼に、いや、彼に教えられた感覚だからこそ、少しだけ喜びを感じたり。

何も、言葉に出さない代わりに、力を抜いて背中越しの彼へと体を預けてみる。
すると予想外に、返ってきたのは熱い唇ではなく、耳元に届いた、クっとつまった笑い声。

「…あの月、欲しいか?」

勘違いをしてしまった自分に、騒いでいた細胞がふっと動きを止めると、その恥かしさのあまり、先ほどよりも暴れだし、身体が異様に熱くなった。

「そ、そんなことできるわけないでしょ?!」

体裁の悪さも手伝ってか、別に怒る理由など何処にもないのに拗ねたような声が彼女から出てくる。 そんな彼女の頭をくしゃりと、彼の手が掻き回すと

「君のためだったら、俺はどんなものでも手に入れるさ。…ちょっと待っていろ。」

背中にあったぬくもりがふっと消えた。
外はそんなに寒いわけでもないのに、何故か身体が冷たくなる。
彼女は自分の肩を抱くように両手で包むと、彼の背中を追うように、部屋の中を覗きこんだ。

もうベランダの近くまで戻っていた彼は、そんな様子の彼女と目が合うと優しく微笑み、先ほどと同じように、彼女の背中を暖めると

「目を閉じて。」

と囁く。
言われた通りに目を閉じると柵を握っていた手を離させ、その代わりに違うものを握らされる。

「開けていいよ。」

何を渡されたのだろう、とゆっくり瞼を開けると、その目に飛び込んできたものは…

手のひらにのった、月。

「その月は…君のものだ。」

実際、手のひらに握らされたものは小さな鏡なのだが、鏡の中に月がちょうど収まって、まるで手のひらに月を乗せたかのような錯覚を覚える。

この人はどうして、こんなにも人を幸せな気持ちにさせることができるんだろう? 嬉しいのに、なぜか涙が出そうな気持ちで、幸せすぎて涙が出るって本当なのかも、などと思いながら、その手の中をじっと見つめる。

一方、彼はそんなずっと黙ったままの彼女に、少し子供地味た真似をしすぎたか?などと不安になり、彼女の顔を覗き込むと…

一気に左胸が、狂った時計のようにリズムを刻みはじめる。

彼女の大きく潤んだ瞳には、何処も欠けることのない円い月が映っている。

理性が飛ぶ、というのはこういうことを言うのだろうか?

その場で彼女を腕に閉じ込め、風呂上りの石鹸の香りがする首筋へ、舌を上へ下へと執拗に滑らせる。
存分にその首筋を味わった後、悪戯にその快楽の空気を紡ぐ細い喉元へ歯を立ててみると、瑞々しく張りのある皮膚にその歯が沈み、生暖かいものが舌を伝う。

「や、やめて!!痛い!」

動きは止めたものの、舌はその場所から湧き出る液体に這わせたまま、目だけを動かし彼女のその瞳を見る。
その目には今にも零れ落ちそうな程、涙を溜めて、黒目の部分には…先ほどと同じように月を映し出す。
なおも彼女は拒む言葉を叫びつづけているが、その言葉さえも彼の耳には―

 私を、壊して

何故なのか、間違った情報に変換されて、その脳へと伝わっていく。

彼を必死に押しのけようとする、彼女の細い両手を左手ひとつで上へと固定させ、彼を拒もうと固く閉じている膝を割り、その間へと身体を滑り込ませると彼の下から逃げられないよう、体重をかける。
彼女の身体を覆うサイズのあっていないシャツのボタンを、肉食獣が仕留めた獲物の中に眠った、滴り落ちる肉に貪りつくためその毛皮を剥ぐ、という行為を楽しむかのように、一つ一つゆっくりと、歯で引き千切る。

月明かりに浮かび上がった、青白い肢体に喉を鳴らしながら、自由を奪った腕の左の付け根部分から、その耳元へと息を吹きかける。

「ご馳走は、ゆっくり、いただかないとな…」

光を背にしているため、彼の表情が今、どのようになっているか、彼女からは窺い知ることができない…が、どんな瞳をしているかは想像がつく。

きっと、いつもの優しさに溢れた瞳ではなく、今まで見たこともないような目を、ぎらつかせているに違いない。

そんな目は、見たくない…

強く、その瞼を閉じると彼から顔を背ける。

「ダメだ、目をそらすな…その瞳を俺に、向けていろ。」

唇はその右の胸の一番上を捕らえたまま、左腿を弄っていた右手を、背けた彼女の顎に掛け、ぐいっと彼のほうを向かせた。
こちら側を向けた彼女の瞳を満足そうに眺めると、その瞳をそらさぬまま、右手は彼女の内腿の部分をゆっくりと撫で続け、左右対称に広がるその肋骨を一本一本、形を確かめるかのように上から下へ、内側から外側へと、あつく熱を持った舌が這えずり回る。

内腿を執拗に弄んでいた指先を、膝の裏側から、内腿を通り、足の付け根まで撫上げられたとき、全ての肋骨を味わい尽くしたその唇が、彼女の腰にかかるその弱弱しい布を噛みちぎった。

いつもとは違う、彼の獣のような瞳と行動に、恐怖心で頭はいっぱいなはずなのに。

今、外気に晒されたその部分は、どろりとした透明な液体で覆われ、本来ならばそこを守る為にあるはずであろうものも、その入り口をまるで指し示すかのようにぴったりと皮膚に張り付き、余計にその形を浮び上がらせ、卑猥だ。

もうすぐ与えられるであろう、その甘美な刺激を、今か今かと、待ちわびるかのように、そこはぴくりぴくりと不規則な動きをしているのが、嫌でも分かる。

いつの間にか自由になっていた腕で、彼を押しのけようとするものの、その手に力は入らず、反対に手招きをするような形になってしまう。

「いつもより、濡れてるな…」

彼女の膝の裏側へ手を入れ、ぐっと上に持ち上げると、彼女の瞳からそらした彼の目は、その部分を凝視する。

「…やだっ、…お願い、見ないで!!」

そんな彼女の言葉も、彼の脳には  

早く、はやく、壊して

そう鳴いているようにしか、届かない。
その言葉に、にやりと怪しげな笑みを浮かべると、濡れ細った彼女の部分へ一気に顔を埋め、その指し示された場所を尖らせた舌先を一気に差し込むと、その上に赤く熟れた小さな実を、指で触れるか触れないか、といった具合に突付く。

こんな状態で………

そう、彼女の頭の中は悲願するものの、喉からもれるのは細く間延びした、言葉にならない空気。
彼女の身体から、素直に出てきたその息に彼は気がつくと、内部を味わっていた舌を引き抜き、そのすぐ上を彷徨っていた指を、1本、奥まで一気に埋める。

「…んッッッ!!」

その声と同時に、彼女の腰が、びくりと跳ね上がる。
右手の中指を、彼女の中で小刻みに揺らし、時折その内側で軽く曲げ淫靡な音を立てながら、抜き差しする。
同じ手につく親指は、中指の動きと同時に、先ほどまで指で弄んでいた実を強く、弱く、擦りつける。

あぁ、もうだめだ ―

思った瞬間、彼女の身体から手が離され、両足首をぐいっと上へ、持ち上げられる。
先ほどより、さらに滴り落ちる蜜を洩らすその部分を、じっと見つめ

「食べごろだ…」

ずぶり、と音を立てながらその最奥まで一気に貫く。
彼女の身体の内臓は、やっと、待ちわびていた感覚を喜ぶかのように、瞬間にしてその体内で捩れ、身体を折れるかのように反らせた。

「…あ、あぁっっっっっ!」

言葉にならない、肺の内側から溢れ出す、その声。
彼女の声に、勢いを増すかのように強くその腰をその恥骨へと激しく、打ちつける。
右足首だけを、下に降ろしそこを跨ぐかのように上体をずらすと、左足は上げさせたまま、またもその絡みつく内部を、違う角度から味わう。

繋がった部分は、仄かな月の光に照らされ、一層彼の血を煮え返させる。
彼の腰と、同じ動きをする彼女の胸を乱暴かとも思える手つきで、鷲掴みにすると、その人差し指だけは、胸の先端に添えて動きと同時に上下に揺れる反動で、刺激を与える。

月明かりに照らされた、彼女の艶かしい姿は、実に綺麗だ。

もっと、その乱れる姿を見たくて、挿れてみたり、焦らすように出してみたり。
まるでその画を楽しむかのように、彼女の内部を掻き回す。
彼女の唇を伝う、その吐息が、締め付ける内部の痙攣が、段々と長いものから短いものを小刻みにと、変わる。

…… そろそろか。

低い声を、口から零しながら、玩具を弄くるかのように動いていた腰を、その一番奥へグイっと押し込むと、そこから小刻みに速さをつけて、その身体を揺さぶる。

彼女の内部の締め付けが、一番強いものへと変わったとき―

その内部を、熱い液体が、いっぱいにした。





そこで、我に返る。

いつもつけるそれと、明らかに違う色をもった、彼女のその喉元のしるしが視界に入り、その部分へ、恐る恐る手を添えてみる。
すると、彼女はその手を優しく包み込むように、手を合わせるとその潤んだ瞳を彼に向けた。

「なんだか、いつもと全然違う速水さんで、恐かった…まるで、狂ったみたいで…」

不安げなその目を、見つめ返すことができず、首をうな垂れ、許しを乞う。
そんな彼の頬を、彼女は優しく包み込むと、

「眠くなっちゃった…」

ふっと、微笑む。
その優しげな声に、ゆっくりと顔を上げ彼女の瞳を覗き込むと、そこには先ほどの恐れるような瞳ではなく、いつもの彼女の、いや、少し眠たげだが、輝いた、大きな瞳。
その瞳の中には…彼の顔と、その背後にある、円い月が映っている。

「…すまない…マヤ。」

軽くその傷口へと、口付けると、彼女を抱きかかえ部屋のベッドへと運び、そっとシーツを掛けた。
暫くすると、彼女の口から睡眠を告げる吐息が聞こえる。
額にぴったりと張り付いた、前髪を一束ずつ優しく指で剥がして、手のひらで汗を拭ってやると、そこへ軽く、唇を近づけた。

それにしても、今日はなんだったのだろう?

得体の知れないその感覚に、彼自身戸惑いながら、ベランダのカーテンを閉めにベッドから立ち上がる。

あぁ、そうか、今日は満月か…

『満月は人を狂わせる』などと昔から言っていたが…と、その月を眺めてみるが、特に先ほど感じたような、血の煮え滾る思いに駆られることはない。
バカなことを考えた、などと自嘲気味に笑みを零しながら、カーテンを、音を立てないようにそっと、閉めた。

彼女の眠るベッドの横へと静かに身体を滑り込ませ、胸の膨らみを隠すように腕を前に合わせ寝息を立てる、その身体を腕の中へと閉じ込め、安心しきっている寝顔を覗き込むと、あることに気付いた。

彼の行動の記憶が、その理性の塊のような頭から、ふと消え去ったのは ―

今は閉じられた瞳の中に映る、その満月を、目にしてからだ。  





満月が、彼を狂わせたのか

彼女の瞳に映る、月が、彼を狂わせたのか



彼女自身が、彼を狂わせたのか



2003.04.02



<FIN>














□coccoさんより□
UGオープンには何か小話を一つっていってて、んでオープンときも30のお題一つ書 くって、鼻息だけ荒げて。一つで両方済まそうとする、オイラを許しちょくれ♪
でも、約束は果たしたぞ、杏子。なーんつってな。
CRY FOR THE MOONとは、「ないものねだり」ということらしいんですが・・・ これを投稿した後に、あるお方からその事を聞きまして・・・ゴメンなさい。おいらは オバカです。(あ、そんなんわかってる?)でも、ほら、月って一応出てくるし、 ちゅうことでお許しくだされm(__)m





□杏子より□
速水さんと狼…、ぴったりの組み合わせなのに、どうして今まで思いつかなかったんでしょう!と思ってしまったほどでした。いいねぇ、ワイルドでねぇ、速水さんにだったらとっとと噛み付かれてみたいもんです。はい。
しかし、速水さんがカプリと噛み付いた瞬間、たら〜っと冷や汗が出ました。ドキドキして…。
記念すべきESCAPE UG初☆御投稿作!!coccoちゃん、ありがとうございました!!





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