| 小さな嵐(マヤバージョン)
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| written by YOYO
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「マヤ様、お電話です。」
「…」 「マヤ様…。あの、お電話なんですが…」 「あ、はいっ。ごめんなさいっ、出ますっ。誰からですか?」 「さあ、あの、今度のお芝居のお話らしいんですけど…。」 使用人の女性に言われ、電話に向かった。ちょうど朝から、 今日の稽古のために「二人の王女」の台本を読んでいたところだった。 亜弓さんの家に居候させてもらって、まだ5日目の朝。 まだ、まだ姫になれないな…と思いつつ、電話に出た。 お芝居の話ってなんだろう…。 「はい、お電話かわりました。北島ですが…。」 「北島…、北島マヤさんですね…。」 少し低くこもった声。誰だろう、お芝居の関係者にこんな声の人いたっけ? 演出家の先生の声でもないし…。 「はい、どちらさまですか?」 「あなたは『二人の王女』に出演するのはやめた方がいい…。」 「え?」何を言われているのか、よく分からない…。 「どういうこと…ですか…?」 「やめた方がいいんですよ。あなたも、お仲間が大事でしょう? せっかくアテネ座なんて大きな舞台に立てようというのに、 あなたが『二人の王女』に出演してしまうと、それも水の泡になってしまう…。」 「…。」 「言っている意味おわかりですよね…。あなたが出演すれば、 一角獣&つきかげはアテネ座への出演をキャンセルされてしまう ということですよ。よくよくお考えになって行動したほうがいい。」 そして、一方的に電話は切れた。 まるで冷たい水を一気に頭から掛けられたような気分だった。 なんなの?なんなの?これは? 誰がこんな脅迫めいたことを…? なんのために? 『二人の王女』への出演は、自力でつかんだものなのに。 無理矢理押しかける形だったけれど、ちゃんとオーディションを受けて…。 アテネ座へみんなが出るのだって『真夏の夜の夢』の成功を認めたアテネ座と、 それを大都芸能が支援することになったからだし…。 大都芸能…。 まさか…。 そうだ…。いつだって、私のやることを邪魔してきた…。 劇団つきかげを潰したのだって、母さんのことだって…。 今度も、私だけアテネ座への出演は許さなかった…。 速水真澄…。 仕事の鬼で、冷血漢で、イヤミ虫っ!!! 今度は、せっかく自力で掴んだ舞台さえも、引きずり降ろそうというのねっ!! それも、こんな汚いやり方で。 上着を掴み、財布を掴み、私は走り出した。 今度こそ許さないっ! ![]() 大都芸能に着くと、一階ロビーに受付がある。 でも、私はそんなところに面会を申し出たって断られるのを知っている。 かまわず上層階行きのエレベーターに乗り込む。 エレベーターを降りて、社長室の手前にある秘書室に乗り込む。 「速水さんにっ、速水社長に会わせてくださいっ!!」 「どっ…どなたですか?困りますっ!!ちょっとっ!」 見慣れない秘書の女性を振り払いながら、社長室の重いドアを一気に開けた。 水城さんが驚いて振り返った。 そして、憎むべき人…速水真澄、その人が眉をひそめてこちらを見ていた。 「これは、豆台風のお越しか…。」 また、そんな言い方をする。 そんな余裕のあるふりをしたって、あなたの仕業だってちゃんと 私にだってわかるんだからっ。 水城さんが何か話しかけたような気もしたけど、 怒りで頭の中が一杯の私には届かない。 「は…速水さん、あんまりですっ!ひどすぎますっ!!」 悔しさで涙が出てきそうだ。泣いている場合じゃない。 涙を喉の奥に押し込んで、彼の言葉を待った。 なんて、答えるつもりだろう。ごまかすのか。認めるのか。 「何のことか、わからないが…。もう少し分かるように説明してくれないか?」 ごまかす…のね…?速水さん…。 「わからないっ?わからないですって?自分で命令したんでしょうっ?!」 あまりの怒りで眩暈を起こしそうになる。 「あ…、マヤちゃん。 とりあえず、こちらに座って。落ち着いて話をしましょう。 今、ミルクティーでも入れてくるわ。ね、座って?」 立っているのも苦しくなり、私は水城さんに言われるままにソファに身を預ける。 悔しい…。 この世界には、いろんな人がいることぐらい私にだってわかる。 いつだって光の当たる場所にいる人には、その影の場所からいろいろな 罠が仕掛けられてくることも。 だけど、こうして目の前で糾弾されて、ごまかすつもりなのだろうか…。 私の前のソファに座り、静かに私を見つめるこの人は…、 この人は、そんな人だっただろうか…。 速水さん…。 「いったい、何があった?本当に思い当たるフシが無いんだよ。」 「説明してくれないとわからない…。」 ゆっくりと話しかける彼の言葉が、私の怒りのベールを一枚…一枚はがしていく。 本当に…、本当に速水さんじゃなかったのだろうか…。 「本当に…?速水さんじゃないの…?」 彼は小さく頷いた。 ああ、速水さんじゃなかった…。 どこか、とてもホッとしたような、なぜだか、とても嬉しいような…。 そうよ…。いつだって、ごまかされたことなど無かったわ。 自分がやったことは、やったと認める人だったじゃない…。 安堵の混じったため息を一つついて、私は今朝の出来事を話した。 彼は、しばらく思案するように黙っていた。 速水さんの仕業じゃなければ誰なんだろう…? だけど、そんなことなんだかどうでもよくなってきた気がする…。 自分でもおかしいような気もするけど…。 アテネ座にだって、大都芸能がついていればきっとキャンセルなんて されないだろうし…。 「あ、あの、ホントに速水さんじゃなかったんですね…。」 考え事をしていた彼に話しかけてみた。 「絶対に違う。俺は君にそんなことはしない。 第一、君が俺を招待してくれるんじゃなかったのか、今度の芝居。 俺はとても楽しみにしているんだが…。」 彼は、ちょっと苦笑いを浮かべながら応えた。 その一言、一言がなぜだか嬉しい。 絶対に違う。俺は君にそんなことしない。 なんだかさっきの自分の怒りが、とても恥ずかしくなって、 言い訳を始めてしまった。 「あの…私、こんな嫌がらせするの、絶対に大都芸能が私を邪魔に しているからだとばかり思って…。 だって…、そもそもアテネ座に私が出られないようにしたのだって… あの…、その…ごめんなさい…。」 彼がニヤニヤ笑いながら言う。 「いや、いい。しかし、それは相当見くびられたものだな…。 俺が君を本気で潰そうと思ったら、そんな姑息な手は使わないで、 一気にやるさ。」 またっ!! ちょっと、いい人だ…なんて思うとすぐこれだ! 「わ、私、誰にも潰されたりなんかしませんっ!速水さん、あなたにもっ! 絶対に『二人の王女』だって成功させて、そしていつか紅天女に なるんですっ!」 つい、大声で切り返す。そうよ、潰されたりなんかしない。 必ず…必ず、紅天女になるんだからっ。 「その粋だ。俺も、君が紅天女になるのを期待しているよ…。」 …この人は…。この人は、私が邪魔なんじゃなかったのだろうか…。 時々わからなくなる…。 期待しているなんて言うから、つい顔が赤くなってしまう…。 この人に期待されたからって、なんで赤くなるのよっ?私…? 「あ…あの、それじゃ、私、失礼します。お仕事中、すみませんでした…。」 なんだか、居心地が悪くなって、ソファを立ちかけたその時だった。 彼の…速水さんの右手が、私の右手首を掴んだ。 心臓が一気に飛び出してくるかと思った…。 「もう少し…、もう少しここにいてくれないか。話を…したいだけだ…。 君の時間が許すならば…。」 右の手首が痛い。 時間?話をしたいだけ? 「あ…あの、手…痛い…。大丈夫…です…。」 混乱する頭の隅で、今日の稽古は午後からだったことだけ思い出し やっとのこと、それだけ口にした。 「あの、時間大丈夫ですから…。もう少し、ここにいても大丈夫なので…。」 もう一度言うと、彼は、手を離した。 私は、紐を切られたマリオネットのようにソファにどさりと落ちた。 捕まれていた右の手首が熱い。 この人は何を考えているのだろう…。 嫌いなハズの、邪魔なハズの人間と、何を話そうというのだろう…。 そんなにじっと見つめられては、なんだか心臓の音がいつもの倍ぐらい 大きく感じられてしまう。 「芝居の稽古はどうだ?美しいアルディス姫は、君の中に生まれたかな? おチビちゃん。」 そんな私の気持ちなど、どこ吹く風で、涼しい顔で彼はそんなことを言う。 本当にまったく何を考えてるんだかわからないっ! 「またっ、速水さんのイヤミ虫っ!毎日、亜弓さんの家でお嬢様として 暮らしてますからっ!もう、すっかり姫に生まれ変わりましたっ! いつでも本番OKですよっ。」 本当は全然アルディス姫を掴んでなんかいなかったし、ましてや生まれ変わったなんてありえないのに、私はいつもの調子でそう言い返す。 なんだか、それが、私らしいと思ったし、その方が居心地がいいような気がしたから…。 それから、またお芝居のお話をしたり、何でもない本当にたわいもない話をした。 彼は、私の話をとても優しい目をして聞いていた。 そして時々からかうように笑い、楽しげに相づちを打っていた。 帰り際、秘書室にいた水城さんに騒ぎを起こしたことを詫び、 ミルクティーのお礼を言うと、にっこり笑って 「仲直りしたの?良かったわね。」と言われた。 べつに喧嘩したわけじゃないんだけど…。 ま、喧嘩売りに来たようなもんかぁ…と思うと、可笑しくてつい笑ってしまった。 それからは一度だって脅迫電話がかかることは無くなった。 なぜだか理由はよく分からないけど、もしかしたら分かっているのかもしれない。 余計な心配はせずに済んで、私はアルディス姫に生まれ変わった。 3.21.2003 ![]() □YOYOさんより□ どうしようっ!! お話らしきものを書いちゃった…。 うぅぅ、私の病気もついにここまで…。 ![]() □杏子より□ 妄想挿絵画家さんとしておなじみに、YOYOさんがついにジカキでびゅ〜でございます。 やっぱりねぇ、一度火のついた妄想菌はねぇ、場所変え、形変え、繁殖していくってもんです。つい数ヶ月前までは善良な市民として平穏な毎日を送っていたでしょうにねぇ。もう、帰れませんね、あのセイカツ。。。 まだ余裕のあったあの頃の速水さんVS豆台風マヤちゃんのシチュですね。このまま終ってれば、綺麗にオチていただろうに、思うことしばしですが、そんな二人を切り取った作品、両サイドから描かれていてなんだかとってもオトクな読後感です。 YOYOさん、すでに次回作執筆中。。。イラストに引き続き、こちらの妄想スピードもかなりのものになりそうな予感。あっぱれ!! ![]() |
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