春の宵
written by 花音
※※お話を読む前に、京都の花灯炉のロマンチックな画像(提供:花音ちゃん)
をご覧いただきますと、より一層乙女度が増して、浸れるかと思います。
乙女気分を盛り上げてみる?→





『今日から花灯路が始まります。清水寺周辺の路地を行灯でライトアップするんです。ポスターには「だれと歩こう 春の宵」って書いてあったけれど、私の願いはあなた・・・速水さんと一緒に歩きたいの・・ゴメンね・・・わがまま言って・・・・。忙しいあたなにこの幻想的な景色をお届けします・・・』

私は速水さんから貰ったカメラつき携帯電話で、行灯で彩られた路地の写真を撮る。精一杯のわがままをメールにしたためる。そして私の精一杯の気持ちをこのメールに込めて送信する。

何気ない毎日を一緒に共有しよう・・・・と渡してくれた携帯電話。

人目を気にしながら付き合わなければならない私たちにとって携帯電話はなくてはならないものだった。



それは一番安心できるコミュニケーションの手段だった。









私は今、ドラマ撮影のために京都にいる。

丁度時を同じくして春の風物詩「花灯路」が始まろうとしていた 。


「花灯路・・・・」


東山と言われる清水寺から円山公園・八坂神社の一帯を路地行灯で彩る詩情豊かな春の訪れを知らせるイベントである。

私はヘアメイクのYOYOちゃんから、少しずつだけれどこの花灯路について聞いていた。

「幻想的の一言に尽きるかな・・・・。好きな人と手をつないで歩きたいステキなイベントよ・・・・」

とパフとチークブラシを握り締めながら熱く語ってくれた。

そんな話を聞いたものだから、余計に私は速水さんとこの道を歩きたくなっていた。


その日の夜遅く、速水さんからメールが届く。

「今日も忙しい1日だった。でも君からのメールがいつもホッとさせてくれる。ありがとう・・・・。君のメールがあるからこそどんなに忙しくても頑張る事が出来る。オレも君とこの道を歩けたらどんなにいいかと思ったことか。ごめん・・・一緒に歩く事が出来なくて・・・。許して欲しい・・・・」

メールと一緒に、紅天女の秋季公演で使う劇場の写真が添付されてきた。

「ゴメンだなって・・・・・。」

私は携帯を思わず握り締める。
握り締めた携帯から速水さんの温もりが感じられる。



どんなに離れていても私たちの心はすぐ側にあるような感覚に包まれていた。









今日の私は矢がすりに袴、編み上げブーツという衣装を身に纏っていた。

念願の衣装を着れたものだから、なかなか脱ぐ事が出来ない。

八坂神社の参道を衣装を着たまま散策していた。
少しずつ日が暮れて、夕焼けが優しく私を照らしてくれる。

私は目を閉じてゆっくりと深呼吸をする。
あなたのことを思い出しながら・・・・・・。

ちょっぴり冷たい空気がふと暖かく感じる・・・・。
そして聞き覚えのあるあの低い声が聞こえてくる。


「お嬢さま・・・・いかがされましたか?」


「えっ・・・・・・」


私は思わず振り返る。

目の前には優しい笑顔をした速水さんが立っていた。
私はきょとんとしてその場に立ちすくんでしまう。


「どうした・・・・。そんなにびっくりした顔をして・・・・」


私はぐるぐる回る思考回路を落ち着かせるように瞬きを繰り返す。

そしてようやく出てきた言葉・・・・・


「会いたかった・・・・・」


速水さんは私をゆっくり抱きしめてくれる。
トレンチコートからは仄かに速水さんお気に入りのコロンが香る。夢なんかじゃないよね?なんてことを真剣に心配している。


「君に会いたい一心で一生懸命仕事して、新幹線に飛び乗ってきたよ・・・・」


そこには誰にも見せる事のない速水さんの笑顔があった。


「ありがとう・・・速水さん・・・・・」




しばらくの間二人の間の時間が止まっていた・・・・・。









「マヤちゃ〜ん!」


遠くで私を呼ぶ声が聞こえる。多分この声はYOYOちゃんだ。
私の姿を見つけると息を切らしながら駆け寄ってきた。


「次のシーンの撮影・・・始まるんだけど・・・・・。あっ・・ゴメンお取り込み中だった?」


YOYOちゃんは私たちの姿を見るなり、申し訳無さそうに両手を合わせた。

私はこの一言に思わず首まで赤くなってしまう。
速水さんは「行っておいで・・・。迎えに行くから・・・・」と私を送り出してくれる。

私は大急ぎでYOYOちゃん一緒に撮影現場へと向かった。
戻る道すがら事情聴取が当然のように行われる。
私はこれでもかといういう位真っ赤な顔をしながら、
「私の大切な人です・・・・。事務所の社長さんです・・・・。」と答える。
YOYOちゃんは私の耳元でささやく。

「よかったね・・・・。花灯路・・・一緒に歩けるね・・・・。」と。



気配り上手のYOYOちゃんは速水さんの泊まる場所を心配してくれる。速水さんが新幹線に飛び乗った事をいうと、心当たりの旅館を当たってくれるという。そしてせっかく京都まで来たんだから、着物着てこの情緒的な雰囲気を味わえばといって、私と速水さんの着物を用意してくれた。


次のシーン。それは思いを寄せる人からの告白のシーン。


今の私の気持ちを素直に表現する事ができる。
監督からは「マヤちゃん・・・すごくいい・・・綺麗だよ」と誉められる。
このシーンに重点を置いていた監督は予想以上の出来栄えにご褒美をみんなに出してくれた。


「明日1日 お休み!!!」と。


過密スケジュールを縫っての撮影だったが、予定以上に早く進行していたのも手伝い、絶妙のタイミングで私たちに束の間の休みが舞い降りてきた。


無事撮影も終わりYOYOちゃんは速水さんの姿を見るなり、鮮やかな手つきで着物を着付けはじめる。そして今日、予約できた旅館の地図を手早くメモに書き込む。


「杏屋」


 ひっそりとした場所にある落ち着いた町屋風の旅館で、女将の杏子とYOYOちゃんが昔からのお友だちで、急な予約も快く受け付けてくれたのだった。


「ここだったら、安心してお泊りいただけますから・・・・」


YOYOちゃんは速水さんにさりげなくメモを渡すと、大急ぎで今度は私の着付けに取り掛かった。


「はい。出来上がり。ゆっくり楽しんできてね・・・・」


YOYOちゃんの笑顔のもと私たちは幻想的な春の宵闇に向かい始めた。









私たちは水打ちして行灯の灯りが煌めく中を歩きつづける。


「綺麗だな・・・・・」


優しさに包まれたその声。そしてあなたの眼差し。
握り合う手のひら越しに、あなたの温もりが伝わってくる。

今迄感じたくても感じる事の出来なかった温もり。

そのぬくもりに包まれながら、幻想的な道をゆっくりと歩いていく。


「確かこの先に恋愛の神様を祀ってある神社があるだろ・・・」
私はなぜ知ってるの?と不思議に思う。


「今日、その神社の前で君を見かけたんだ・・・・・。」


小首を傾げながら速水さんの顔を見上げる。


「一生懸命お参りしてたな・・・・・・」

うん・・・そうだよ・・・・一生懸命お参りしてたよ・・・・と私は頷く。

そっと繋いだ手を離し3歩ほど先を歩きながら、


「私ね・・・・・京都に来てからずっと恋愛の神様を祀ってある地主神社に来るのが日課だったの。私ね、一生速水さんのこと好きでいられますようにって、一生この恋が実らなくてもいいから生涯速水さんのこと好きでいさせて下さい・・・・・って毎日お参りしてた・・・。今日もお参りしてた・・・・・」


それは私の秘めた想い。秘めた祈り。もうすぐ結婚してしまう速水さんを一生好きでいたい・・・・。ただそれだけだった。


速水さんは突然私の手を掴みこう言う。




「清水の舞台に行こう・・・・・・」と。




私は手を引かれるまま一気に石段を駆け上る。

清水の舞台にはほんのり冷たい春の風が吹いている。

手すりにつかまりながら速水さんは清水の舞台から身を乗り出す。私は速水さんの着物の袖をしっかりと掴みながら恐る恐る下を覗き込んだ。


「今日、やっと鷹宮家に婚約破棄の申し出をしてきたよ・・・・・。」


私はショート寸前の思考回路から精一杯の言葉を搾り出す。


「ホントにそんなことして大丈夫なの・・・・・・・?」
「大丈夫だ・・・・安心しろ・・・・・」


速水さんは背中から私を包み込むように抱きしめる。


「鷹宮会長から『よくも清水の舞台から飛び降りる真似をしよったな・・・』って言われたよ。でもな、オレがこの舞台から飛び降りるくらいの覚悟が要ったのは、オレの気持ちを君に伝えた時だけだ。」


この言葉だけで充分だった。


あなたの顔を見なくても声だけでわかる。
あなたの想いの深さが・・・・・・。
あなたの温もりから揺ぎ無い自信が伝わってくる。
それは私を生涯幸せにしてくれると言う自信・・・・。

私は目を閉じ深呼吸する。そして問い掛ける。


「私なんかでいいの・・・・・?」


「バカだな・・・・。君じゃなきゃダメなんだよ・・・・。君じゃなきゃ・・・」




強く私を抱きしめてくれる。それが速水さんの答えだった。









「あのぉ・・・・・そろそろ夜間拝観おわるんですけど・・・・・・」


私たちはその声にふと現実の世界に戻ってくる。
周りを見回せば沢山いた観光客も誰一人としていなくなっていた。

そう・・・・私たちはかなりの長い間、清水の舞台で佇んでいたのだ。
急いで石段を降りる。

目の前に広がるのは、行灯の灯りで浮かび上がる一筋の路だった。

まるでこれからの私たちが歩いて行くであろう路のように見える。

華やかさの中に、凛とするものを醸し出すこの路・・・・・。


「ずっと一緒に歩いていこうな・・・・・・」

「うん・・・・・」


私たちは冷たく冷え切った身体を寄せ合いながら「杏屋」の灯りを目指して歩き始めた。




一本の細い路地を入る。「杏屋」と書かれた大きな提灯が冷えた空気の中で暖かい光で私たちを迎え入れてくれる。


「いやぁ〜お待ちしていましたぁ。ようこそおこしやす。外はさむぅおまへんでしたかぁ?」


女将の杏子が上品な着物姿で出迎えてくれた。


「さ、さ、あがっておくれやすぅ。」


杏子は奥にある離れに通してくれる


「さ、どうぞぉ〜こちらのお部屋どすぅ。気にいってくれはりますでっしゃろうかぁ・・・・ほな、ごゆっくり・・・・」


速水さんは部屋に入るなり、「今夜は離さないぞ・・・・・・」と呟く。


私は速水さんの背中におでこをくつけてコクリと頷く。


速水さんの長い指がゆっくりと私の帯に手をかけた・・・・・・・




その言葉通り、熱くて長い長い夜が続いたのだった・・・・・・・。









1日というお休みはあっという間に過ぎてしまう。
楽しければ楽しいほど、時間の経つスピードが比例して速くなる。
気が付けば、私と速水さんは東京行きの最終の新幹線を待つホームに立っていた。


「淋しそうな顔をするなよ・・・・。東京に帰れなくなるじゃないか」


今にも泣きそうになっている私に優しくささやく。


「・・・ゴメン・・・・。分かってるけど・・・・・・」


「東京に戻って、少し落ち着いたら婚約発表しよう・・・・」


私は大きく目を見開いて速水さんを見つめる。


「オレに任せろ・・・・そしてオレを信じろ・・・。オレは君だけしか見えないから・・・・」


私は泣かないように、うん・・・と頷くだけで精一杯だった。


最終の新幹線が京都駅に到着する。
1分間だけの短い停車時間。
新幹線に乗り込んだ速水さんが私の手を強く引っ張る。
そしてキスをする。



一瞬のキス。



「えっ・・・・」


そう思った瞬間、新幹線のドアが閉まった。

閉まったドアの向こうから「と・う・き・ょ・う・で・ま・っ・て・る・・・」と速水さんの笑顔があった。

私は速水さんが乗っていった新幹線が見えなくなても何時までも何時までもホームに佇んでいた。。









1日という束の間の休日を楽しんだ私はいつものように撮影現場へと向かう。

そしていつものようにYOYOちゃんにお化粧をしてもらう。


「マヤちゃん・・・よかったね・・・。マヤちゃんがどんなにウレシイかってこのお肌見てたら分かるよ・・・。つやとか肌理が全然違うもん。」


YOYOちゃんの鋭いつっこみに、私はうれしいやら恥ずかしいやらでフフっと笑うのが精一杯だった。


そんな時私の携帯にメールが届く。


それは速水さんからのメール。


「来年もまた一緒に花灯路歩こう・・・・。今度歩くときは君の左手の薬指に指輪をして・・・・。」


メールと一緒にELLEのマリッジリングの写真が送られてきた。


「ありがと・・・・。」


私は速水さんと一緒に歩いた坂道を見つめながら、携帯電話を握り締めた。








2003.05.08



<FIN>














□花音さんより□

今年の春初めて「花灯路」を歩いた私の率直な感想・・・・・。

「好きな人と歩いたら幸せよね・・・・・」

じゃあマヤちゃんと速水さんに歩いていただこう!と思いついたのがそもそもの始まりでございます。

これは「感覚の再現」しかない!と思った私は、花灯路を歩きながら妄想に浸って歩いたことは言うまでもありません。

今回も杏子ちゃんには老舗旅館の女将として登場していただきました!
京都弁を話す杏子女将に注目!!です。

すてきな壁紙を用意してくれた杏子ちゃん。京都弁を翻訳をしてくれた●号さん。快く出演していただいたYOYOちゃん。この作品を完成までいろいろと支えてくれたみんな!そして最後までお読みいただきました皆さまに感謝を込めて・・・・・。







□杏子より□
京都大好き!憧れっ!!の杏子にはナマツバもののシチュでした。
いいよね〜、京都を愛するダーリンとそぞろ歩くって…。それも夜!こんな灯のもとで…!
そして、杏子が杏子が!京都弁喋ってるぅぅぅぅ〜。すみません、すみません、出てばっかりですみません。ええ、ええ、出たがりですみません。恐縮です、女将だなんて…。
でも京都弁大好き!〜してはる〜、なんていわれるとうっとりしてしまいます。
花音ちゃん、乙女度満開の作品、ありがとうございました!!







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