恋せよ乙女!!〜愛のキス☆キス大作戦〜 1
written by しずか
━ 動機 ━




「あんたなんか大嫌い!」

そんなことが言えたあの頃が懐かしいと思う。

「はぁ。」

マヤは、楽屋の鏡の前でため息をついた。



紅天女の試演であんなに苦しんだマヤではあったが、持ち前の才能で後継者もあっさり彼女に決まり今では一躍時の大女優となった。
しかし、そんな彼女の恋の行方といえば結局何も進展せず、未だに想いを伝えていない真澄とマヤは、相変わらず所属事務所の社長と女優の関係のみで終わっている。
ただ一つ以前と違うことは、マヤが真澄に対する想いに気付いてしまったためか、彼の愛情あふれるからかいや皮肉に全く乗ってこないことだ。

一方的に憎んでいた頃は、「あんたなんか死んじゃえ」やら「大嫌い」やらひどいことを言ったりもしてきたが、今では「チビちゃん」と言われるだけで、女性として見られない現実を突きつけられて何も言えなくなってしまう。

この前のパーティのときだって・・・。






真澄の隣には、トップモデルかと思われるくらいスタイルの良い美人をエスコートして、周囲の来客に挨拶をしていた。
真澄自身は"ただのビジネス"程度の付き添いだったが、マヤとしては、とてもビジネスの関係として割り切って見ることが出来なかった。

「杏子さん、とか言ってたなぁ。今をときめく美人ピアニスト・・・かぁ・・・。」

パリコレのモデルかと思ってしまうくらい、誰が見ても絵になる二人。
なんだか見せ付けられているようで居たたまれなくなってしまった。

年齢も容姿も学歴も家柄も全く違う、雲の上の人に恋してしまった・・・。
何もこの人じゃなくても世の中にはあたしに合ういい人が・・・とは思ってみても、 今更、ど〜にもこ〜にもこの想いは消し去れそうにもない・・・。
絶望の二文字が目の前を通り過ぎる。

"はぁ、こんなに好きになっちゃって・・・ほ〜んと、バカみたい・・・。"

頭では分かっていることだけれど、杏子という女性とはあまりにも違い過ぎる美貌。
二人の近くへ行けば、自分の冴えない容姿がさらに目立ってしまう・・・。
ますます惨めな気持ちになって、結局は壁際で一人ポツンとその場をやり過ごす始末だった。
そして、マヤにさらに追い討ちを掛ける出来事が起きた。

その日の帰りに真澄に送って貰った車中でのこと・・・。

絵になる二人をこれ見よがしに見せ付けられて悔しくて飲みすぎてしまったマヤを、真澄は優しく彼女の住んでいるマンションまで送ってくれたのだ。
マヤとしては、エスコートしていた杏子よりは自分のことを気遣っていると、淡い希望を胸に彼の車に乗り込んだ。
しかし、真澄への溢れる想いに気付いてしまったマヤは、どうしてもたわいもない会話ができない。
それでも頑張って、密室に二人という気まずい状況を必死で回避しようと言葉を口にした。

「速水さ〜ん、あたしが酔ってるからって送り狼にならないでくださいよ〜。」

胸が張り裂ける思いで冗談を言ったつもりだったのに、返ってきた言葉はそっけない心臓を抉り取られるような絶望的な言葉だった。

「たとえ、この世の中の女性がチビちゃん一人になったとしても、俺は君をどうこうする気はない。」






"速水さんにとってあたしは何時までたってもお子様なんだぁ。"

結局女性としては見て貰えない。

"もう、23歳にもなるのに・・・。"

ため息混じりにマヤは楽屋の鏡を覗き込んだ。
そこに写っているのは・・・。
冴えないあたし。
平凡なあたし。
何処までも子供っぽいあたし。
お芝居以外何もできないあたし・・・。

"チビちゃん"って言われたって仕方がない。

ますます悲しくなってきた。
この前のパーティのことだって、思い出しただけで涙が溢れ出る。

"はぁ、あたしってなんでこんなに子供っぽいんだろう・・・。"

そんな物思いに耽っていると、突然後ろの方から声がした。

「どうしたの、マヤちゃん。元気ないわよ。」

何時の間にか水城が側にいた。

「あぁ、水城さん。どうしてここに・・・。」

「どうしてって、ずいぶんな言い方ね。これでも、あなたのマネージャーなのよ。それにしてもマヤちゃん、ため息なんかついちゃって。何かあったの?」

「あ、な、何もないですよ?あ、あたしは別に何も・・・。」

マヤは否定してみるがなんだかぎこちない。

「そう、何もない割には、顔にしっかり"悩んでいます"って書いてあるわ。」

「・・・・・・。」

図星だとマヤは思った。

"あたしって舞台を降りるとすっかり大根になってしまう。はぁ、水城さんって何でもお見通しなんだぁ。"
"でも、水城さんってスタイルもよくて美人で仕事もバリバリこなして女性の目から見ても憧れるなぁ。"
"この前の杏子さんって人も、仕事のできる美人って感じだったし・・・。"
"あたしも、そんな大人の女性だったらいいのに・・・。そうだ、この際、思い切って相談してみよう。"

ふと、そう思ったマヤは、自分の胸の想いを彼女に相談することにした。

「水城さん、相談があります。」

「相談?」

「はい。あたしも、あたしも、水城さんみたいな大人の女性になりたいんです。チビだのズブだの言われない魅力的な大人の女性になりたいんです。どうすればいいですか。」

突然のマヤの問い掛けに水城は驚いた。

「まぁ、マヤちゃん、いきなりどうしたの?」

「え、あ、あのー。い、いけないですか?あたしがそんなこと思っちゃ・・・。」

「そんなことないわ。でも、そんなに急いで大人になる必要はないわ。マヤちゃんにはマヤちゃんのいいところがあるんだし・・・。それに・・・。」 すかさずマヤが答える。

「それじゃ、ダメなんです。今のあたしじゃ、ダメなんです。今すぐ大人の女性になりたいんです。」
マヤはぐっと拳を握り締めた。
身体が震え、目には微かに涙が滲んでいる。

かなりの切羽詰ったマヤの返答に水城はしばし考え込んだ。
マヤといったら、今時珍しいくらい純粋無垢が売り物の女の子。
それにどちらかというと、マイペースで芝居のこと以外にはとりわけ無欲な子だった。
それなのに突然、しかも今すぐ大人の女性になりたいだなんて・・・?

「あたしって、お芝居以外にこれといって取り柄もないし、美人でもお金持ちでもないけど・・・。」

「せ、せめて、"チビちゃん"ってバカにされない大人の色香漂う女性になればって・・・。そう思って・・・。」

そこまで言って、マヤは顔に手を当てて下を向いてしまった。
そして、そこまで言われて水城もマヤの胸の内が分かった。

"「チビちゃん」って、彼女をそんなふうにからかって楽しむ人なんて世界中で一人しかいない。 マヤちゃん、もしかして、真澄様のことを・・・。"

そう思った水城はマヤの手をそっと取ると、少し顔を近づけて労わるような眼差しで優しく問い掛けた。

「マヤちゃん、それってもしかして社長に見合う女性になりたいってこと?」

鋭い突っ込みにマヤが慌てふためいた。

「え?あ、わわわっ。あ、あたし、あんなイヤミ虫のことなんか、ど〜も想ってません。」

「ほ、ほんとですよ。速水さんのことなんか。な、なんとも想ってませんからね。」

しかし、水城のサングラスの奥の見透かしたような瞳に耐え切れなくなったのか、マヤは少しずつ正直に告白しはじめた。

「でも、速水さん、いっつもあたしの顔見るとチビチビって言ってて、悔しくてたまらないのはホントです。この前のパーティの時だって、杏子さんとかいう綺麗な人の肩を抱いて、あたしに"チビちゃん"って話し掛けてきて・・・。なんだか比べられているようで、あたし、すっごく辛かったんです。
だから、何時か速水さんも驚くような大人の女性になって見返してやりたいんです!
ただ、ただそれだけなんです。だって、チビチビってホントのことだし。言い返す言葉もなくて・・・。」

マヤは、真澄への想いを悟られまいと必死になって言い訳していた。
しかし、これだけ顔を真っ赤にして涙を浮かべて食って掛かる、あまりにもあからさまなマヤの態度に、水城は笑いを堪えるのがやっとだった。

"ふふっ、マヤちゃんって本当に分かりやすいんだから。それじゃ、真澄様のこと、好きで好きでしょうがないって、告白しているようなものよ。"
"それにしても、真澄様といい、マヤちゃんといい、どうしてこうも素直に気持ちを言えないのかしら。見ているこっちがイライラするわ。"
"真澄さまだって、高校生の時のマヤちゃんならともかく、この年になってまで、そんなふうにからかったりしたら、誰だって傷付くに決まっているじゃない。"
"いくら世間が仕事の鬼だって言っても、最愛の女性の前ではただの少年って感じよね。"
"必要以上に壁を作って空回りして悶々として・・・。間に挟まれている私の身にもなって欲しいものだわ。"

水城は日頃の真澄への不満がフツフツと沸いてきた。
毎回マヤ絡みでボスの尻拭いをさせられるのは、はた迷惑もいいところである。

"せっかく二人が想い合っていることが分かったことだし、この機会に少しマヤちゃんに入れ知恵してみようかしら・・・。"

水城はある方法を思いつき、マヤに提案することにした。

「マヤちゃん、大人の女性になるのに、とっておきのいい方法があるわ。」
「えぇ?ほんと?」
「ホントよ。今から私の言うことに必ず従ってくれる?」
「うん、なんでもするー。」
「そう? じゃ、驚かないで聞いてくれる?それはねー、・・・・・・・・・・・ってことなんだけど・・・。マヤちゃん大丈夫?」

話の一部始終を聞いたマヤは、驚いて素っ頓狂な声を上げてしまった。

「えぇ、えーーーーーーっ。あたしがー、そんなこと・・・?」

マヤは、大胆な水城の提案に顔を赤らめて俯いた。
しかし、大人の女性になりたいと相談してきたのはマヤ自身だ。
こんなところで恥かしがってはいられない。
マヤは、ふと固く決心した。

"この際それで大人の女性になれるならいいじゃないの。"
"あたしだって、あたしだって・・・。"

マヤは何かを吹っ切ったように前を見据えると水城に力強く返事をした。

「水城さん、あたしやってみます。今後のお芝居の練習にもなるし、あたし一生懸命がんばります。」

ある意味開き直った発言でもあった。

「そう、よかったわ。」

水城は微笑んで、マヤの両手を強く握り締めた。

"やっぱり水城さんに相談してよかった。これで大人の女性になれるなら・・・。"

"ふふっ。今後のマヤちゃんと真澄様が楽しみだわ。"

そうして水城のいたずら心溢れる作戦は実行されることになった。






6.23.2003



…to be continued












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