恋せよ乙女!!〜愛のキス☆キス大作戦〜 4
written by しずか
━ 陰謀 ━




―――数日前のこと―――

マヤと水城がテレビ局を訪れた時、彼女達の会話を聞いている一人の青年がいた。

"ふっ、マヤちゃん、君の提案、悪いけど盗み聞きしちゃったよ。"
"だけど、どうしてなんだい?そんなにキスの練習をしたいんだったら僕がいくらでも相手になってあげるのに・・・。"
"そうか、本命が僕だから練習できないって訳だ。"
"そうだろう・・・・・・。"

完全に勘違いしている男。
趣味の悪いTシャツをなびかせる若手俳優、桜小路優である。

桜小路はマヤと水城が帰った後、透かさず企画部長に話し掛けていた。
自らの計画を実行するために・・・。

「あぁ、部長さん、ちょうどよかった。今日は、特番の企画でちょっと相談があって・・・。」

不敵な笑みを浮かべて提案を持ちかけてきた。

「一般の参加者をオークションで競わせるってお聞きしました。確かにそれも面白いのですが、でも、今回集まる人達は自らが1番のマヤちゃんファンだと自負する者ばかりです。」

「それで、君は何を言いたいんだ?」

「でしたら、誰が1番のマヤちゃんのファンなのかクイズ形式で競ってみても面白いのではないかと?」

桜小路は、あたかもそれが自分の企みだとは思わせないよう客観的に話を進めていった。

「そうだなぁ。それも面白いかもしれないが、そうは言ってもなぁ・・・。」

企画部長は満更でもない様子だったが、それでも「いきなり言われても・・・」と言わんばかりに少々困惑していた。

"ふっ、まぁ予想通りの展開だ。でも、僕はあきらめないよ。"
"よし、とどめといくか!"

桜小路は意味深な笑顔を浮かべると、極めつけの一言を口する。

「そこで、相談なんですが、僕も芸能人枠として一般に紛れて参加したいのです。」

「えぇ?」」

「僕とマヤちゃんって、今、巷では噂のカップルとして最も注目されています。そんな僕達が突然のハプニングで交際発覚、そしてキスシーンとなったら視聴者としても非常に面白いのではないかと思いまして・・・。」

確かに、紅天女の主演女優がマヤに決まって以来、この二人の恋の噂が絶えない事は事実だ。
常にマスコミに追いかけられ揉みくちゃにされる始末である。
そんな二人の突然の交際宣言、そしてキスシーン。
これは面白い番組が出来そうだ。
企画部長は、ポーンと軽く手を叩くと「よく言った!」と言わんばかりに、桜小路の肩に手を当てて話し始めた。

「桜小路君、そりゃ面白い!あらかじめ君が優勝できるような問題を作っておけば、ものすごい視聴率が期待できる。
いい企画をありがとう。さっそくスタッフを集めて検討しよう。」

こうして、桜小路の略奪的な企みは見事に実行されたのであった。

"ふっ、僕はマヤちゃんをもうかれこれ10年も前から好きだったんだ。"
"少々手荒な手段だけど上手く利用させてもらったよ。"
"マヤちゃんきっと驚くだろうなぁ・・・。僕に決まって赤くなってもじもじして。"
"あぁ、夢にまで見たキスシーン。そして、堂々の交際宣言!"
"僕ってなんて頭がいいんだ!"

「ハハハハハハハハッ。」

桜小路の甲高い笑い声が廊下を響いていた。






真澄が都心の渋滞を潜り抜け収録現場につくと、スタジオは一様に静まり返っていた。
ふと少し大きめの広間を覗いてみると長机と長椅子が並べられ、鬼の形相でペーパーシートと格闘する男共の姿が見える。
どうやら一般人枠4人を決定する筆記試験が実施されているらしい。

"しかし、一体こいつら何なんだ・・・。"

真澄は唖然とした。

無理もない。
一般参加者の輩、自称マヤちゃんマニアと呼ばれる百数十人の殆どは・・・。
ファッションセンスのない服装にモサモサの頭。
中には"MAYA"とプリントされたTシャツにロゴ入りバンダナまでしている有様。
そしてベルトの金具からマヤのフィギュアまでぶら下げているヤツまでいる・・・。
如何にもアイドルおたくという感じだ。
そんな野郎共が皆一斉に恐ろしい形相で四択問題をこなしているのだから真澄としては不機嫌極まりない。

"なんだ、この男共は。"
"しかも皆目が血走ってるじゃないか。"
"桜小路だけじゃなく、こんな奴等とも俺は戦わなければならないのか!"

歯軋りしたくなる心境とは、このようなことをいうのだろう。
お茶の間の人気者になったマヤだから仕方がないとは思うものの、それ以上に彼らに対する最大級の嫉妬の炎が自らの身体を包み込んだ。
そして無性に腹立たしくなって拳を握り締めていた。



「はっ。これはこれは、速水社長。」

テレビ局の重役達が真澄を見つけ、それぞれに頭を下げ当り障りのない挨拶をしてきた。

「ところで今日は、どのようなご用件で?」

「視察でございますか?それとも何か・・・。」

「いや、今日は、うちの北島が出る特番のオーディションに来た。」

「はっ、さようでございますか。・・・で、どなたが参加されるのですか?」

「私だ。」

「・・・・・・・・・。」

一瞬の沈黙。

「はぁ?」

周囲にいた役員及びスタッフが一様に耳を疑った。
頭に大量の疑問符が浮かぶ。

「い、今なんて・・・?」

「だから、この後収録されるクイズ番組の一般参加部門の募集に私も加わりたいのだが・・・。」

「・・・・・・・・・。」

あまりの意表をついた真澄の発言に誰一人唖然として言葉も出ない。

「ご、ご冗談を・・・。」

やっとの思いで、一人が言葉を口にする。

「いや、冗談ではない、本気だ。」

「・・・・・・・・・。」

やはり皆一様に驚きを隠せない。
さらに、真澄のその真剣な表情に誰もが圧倒された。
しかし相手は業界一の堅物、速水真澄である。
下手な詮索は出来ない、というか機嫌を損ねてしまったら後が恐い。
そのためか皆気後れして誰一人なぜ参加するのか聞き返すものはいなかった。



「ここで私も筆記試験を受ければいいのか?」

真澄が訊ねる。

「え? い、いいえ、とんでもございません。」

「本当に参加するのでしたら、それは勿論筆記試験なしで無条件で出て頂けますが・・・。」

完全にショートしてしまった思考回路のまま、一人のスタッフが対応した。

「そうか、それは済まない。だが、これは私個人の問題だ。彼らと同じ扱いにしてくれ。」

こうして、真澄も筆記試験を受けることになった。



そして厳正な選考の結果、一般参加枠4人のうちの一人が真澄で埋まることになった。






「はぁ、ホントのホントに本番なんだぁ・・・。」

その頃、マヤは楽屋で来るべき時を待っていた。
楽屋の奥の少し大きめの椅子にちょこっと座り、大きくため息をつく。
もうすぐ、もうすぐ収録が始まる・・・。

"あたしって、結構大胆なことするんだよなぁ・・・。"
"一体どうなっちゃうんだろう・・・。"

傍らには大好きなミルクティが飲みかけで置かれていた。
マヤはこれから踏み出す未知の世界をふと思い浮かべ視線を窓の外に向けた。
空は青く透き通り、それはマヤの未来を祝福してるかのように感じた。
マヤは思わず眩しい日差しに目を細めた。

「不安と戸惑いとがごちゃ混ぜになっている、今のあたし・・・。でも・・・、きっと未来は・・・明るいよね。」

マヤはほどよく火照った身体をそっと両腕で包み込んで鏡の中の自分に話し掛けていた。

と、その時。

「ねぇ、マヤちゃん聞いた〜?」

どうやらスタッフの一人が部屋に入って来たらしい。
あっけらかんとしたそのスタッフは、如何にも「面白いことがあったんだゾ!」と言わんばかりにマヤの顔をまじまじと覗き込み目をキラキラさせながら話し掛けてきた。

「聞いたって何が?」

近くに置いてあったミルクティを一口啜ると、キョトンとした顔で振り返った。

「な〜んだ、マヤちゃんまだ知らないんだぁ。今、すっごく面白いことが起こってるんだから〜。」

「ナニナニ?何があったの?」

マヤは不安な気持ちを心の底に閉じ込めると、とりあえず明るく聞き返した。

「ふふっ、聞いて驚かないでよ〜。実はねぇ、ちょっと前に速水社長が来られてね、マヤちゃんの出る特番に一般参加するって仰って。今スタジオ中大騒ぎよー。」

「・・・・・・・・・。」

「・・・は、速水さんが・・・・・・?」

「え? っえぇーーーーーーーーーーーっ!!?」

"う、うそでしょ・・・。"

マヤはあまりの驚きに素っ頓狂な声を上げてしまった。

「でしょ、でしょ、すごいでしょ。」

マヤの気持ちを一向に知らないスタッフは、状況もつかめずその後も面白そうに話をしていた。

しかし、マヤは何を言われても放心状態でとても受け答えできるような状況ではなかった。

"し、信じられない・・・。"

マヤの身体は急にガタガタと震え出し目の前が真っ白になってしまった。
そして口に手を当てその場にしゃがみこんでしまった。

"なんで・・・どうして?"
"何しに来たのよ・・・。"

それが真澄にとって何のメリットになるのか?
全く理解できない。

"速水さんが出るなんて、きっと何があるはずだわ・・・。"
"ま、まさか、私と・・・・・・?" (ただ今妄想中)
"い、いや、いや、いや。ぜ〜ったい速水さんに限ってそんなことある筈がないよぉ。"
"だってこの企画は桜小路君が優勝するって決まってるんだし・・・。"

マヤは頭をブンブンと大きく振って、もくもく膨らんだ妄想を必死の思いでかき消した。
"で、でもなんで・・・?"

完全にパニック状態である。口はアワアワしている。

「マヤちゃん、マヤちゃん。どうしたの?」

数回名前を呼ばれてマヤはやっと我にかえった。
心臓がバクバクして今にも死にそうな思いだ。

「ねぇ、マヤちゃん、そんなに驚いた?そうよね、ちょっと信じられないよね。でも、ウソだと思うんだったらちょっとスタジオ行って見てきてみなよ〜。」

「一般人に混じってスタッフの説明受けてるからさぁ!」

言われるままマヤは、カチコチに硬くなった身体を引きずり問題のスタジオへ向かった。

すると、何かが起こっているのだろう、マヤはただならぬ雰囲気を感じた。
少しざわついているような気もする。
マヤは、やっとの思いで人だかりを掻き分けた。
と、そこで見たものは・・・。

「あぁっ!!」

会いたくて恋しくてたまらない愛しい真澄の姿だった。
心臓が跳ね上がって何処かへ飛んでいってしまいそうな気分だ。
マヤは思わず声を上げてその場に立ちすくむ。

"ホントだ! ホントに速水さんがここに来てる・・・。"

マヤが真澄に会うのはあの時のパーティ以来だ。
こんなに会いたくて恋しくてたまらなかったのに、こんな状況で会ってしまうとは・・・。

"急に来られたって・・・。あたし、どうやって本番収録に望めばいいのよぉ・・・。"

気が付いたら、取り留めもなく涙が溢れ出ていた。

"やだぁ、なんでこんなときに涙なんか出てくるの?もうすぐ本番なのに・・・。"
"でも、でも・・・あたし・・・。"

今すぐ真澄に駆け寄って問いただしたかった。

"なぜ?" "どうして?"

ただのからかいだけで、ここに来るような人ではない。仕事だって忙しい筈だ。
それなのに、それなのに・・・。
しかしマヤは、聞きたいことが頭の中をぐるぐると回転するだけで結局は一歩も身動きがとれなかった。
ただただ、その場で立ち尽くすだけ・・・。


と、マヤの後ろの方で誰かが話をしているのが耳に入った。

「おぃ、あの大都芸能の速水真澄氏が特番のクイズ番組に一般参加するんだってよ。」

どうやらマスコミがどこからか噂を聞きつけてきたらしい。
彼らも真澄の様子を窺いどよめき立っていた。
マヤにも否応なしに会話が聞こえてくる。

「噂の恋人桜小路優と業界一の堅物と呼ばれる速水氏が紅天女をめぐっての対決か!」
「速水氏と北島マヤのハプニングといったら『忘れられた荒野』以来じゃないのか。」
「とんだスクープだ!」
「おもしろい、こりゃいけるぜ!」

"・・・あぁ、そうだった・・・。"
"『忘れられた荒野』、あの時もそうだった。速水さん、話題作りの為にわざと憎まれ役をかったんだっけ。"
"きっと今回も女優として、私のテレビ初出演を盛り上げてくれるだけにすぎないんだわ。"
"結局は紅天女の上演権を持つ女優としてしか思われてないんだ・・・。"
"それなのに期待しちゃって。あたし、なんてばかなこと思ったんだろう・・・。"

ようやくマヤなりに考えてたどり着いた結論は・・・。

―――速水さんが見ているのは・・・女優としての・・・あたし・・・。―――

"所詮、女優・・・か・・・。"

無性に空しくなってきた。
"はぁ、こんなところで悲しんでちゃ、あたしちっとも前に進めないのに・・・。"
"でも、でも・・・。ちょっとだけ、速水さんがあたしのこと想って来てくれたって。思っても、いいよね・・・。"
"女優としてしか見られてないけど、やっぱりあたしはあなたしか愛せないんだもの。"
"だから・・・そんな夢、ちょっとだけ・・・見てても・・・いいよね・・・。"

それでもマヤは淡い期待を胸に抱くのであった。
身体の震えを抑えながら・・・。 そして収録は始まった。







6.26.2003









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