恋せよ乙女!〜愛のキス☆キス大作戦〜 5
written by しずか
━ 対決 ━




"どうして速水社長がこんなところに・・・?"
"ま、まさか僕のこの計画を知って邪魔しにきたのか!?"

突然の真澄の登場に桜小路は冷や汗をかいていた。
いや、桜小路だけではない。テレビ関係者、スタッフ一同が予想外の人物の登場と先の見えない番組展開に固唾を飲んで見守っていた。
あの業界一の堅物、速水真澄が何の目的を持ってかクイズ選手権に参加しているのだから皆一様に驚きを隠せない。
明らかにいつもと違う雰囲気が漂う。
そのためか司会進行のタレントの声も心なしか浮き足立っているように聞こえた。

収録は徐々に進行していく。

結局、今回の企画は桜小路の陰謀により、一般参加者4人の中で優勝者を1人決め、その勝者と桜小路が一騎打ちをするという仕組みになっていた。
まずは一般部門。
問題は、マヤの出身地、生年月日、初めて出た芝居のタイトルなど初歩的な問題からマヤの生まれた時のことや学生時代のことまで幅広いことが問われた。
とはいえ、真澄は長年紫のバラの人としてマヤを影から支えてきた人物である。
あっさり全問正解し、見事勝利を勝ち取った。

そして、いよいよ桜小路との対決である。

"速水社長、なかなかやるなぁ。"
"でも、何でこんなにマヤちゃんのこと、詳しく知っているんだ?"
"ふっ。まぁ、いいや。僕はこれから出る問題も解答も全て知っているんだ。誰が相手だって所詮関係ないことだ。マヤちゃんは僕がいただく。"

桜小路はあくまで強気である。

また、真澄は真澄でこれから立ち向かう最大の敵、桜小路を目の前に激しい嫉妬心を剥き出しにしていた。
ここで負けてしまったら長年マヤを見守り続けてきた一人の男としてのプライドが許さない。

"桜小路め!姑息な手段を使いやがって!"
"お前にだけは絶対にマヤを渡さない!!"
正直なところ真澄だって、これだけ業界で力を持っているのだから、簡単に金で問題を買収できたはずだった。
しかし、彼はあえてそうはしなかった。
ビジネスでは卑怯で手荒な手段を使う仕事の鬼でも、せめてマヤの前では正直な自分でいたかった。
彼女を愛する一人の男性として正々堂々と戦いたかったからだ。

二人の間で火花が散っている。

「ゴクッ。」

固唾を飲んで事の成り行きを見守るスタッフ達。
冷や汗を流しながら、様子を覗う重役達。
アワアワしながら視線が全く定まらないマヤ。

そして最後の戦いは始まった。
淡々と問題が出題されていく。
その内容といえば・・・。
とてもマニアの中のマニアでないと分からないことだった。
恩師月影千草との会話の内容、日常生活での失敗談、あげくの果てにマヤのスリーサイズまで出る始末。

"なんで速水さん、あたしのスリーサイズまで知ってるの???"
"ただの商品だからってそこまで知り尽くしてるものなの・・・?"

マヤは恥かしさのあまり、もじもじと下を見て俯くばかり。
とてもまともに真澄の顔が見られない。

しかし、二人は難なく問題をこなし、双方全問正解のまま全ての問題が出尽くしてしまった。
またまた予想外の展開にスタッフ一同息を飲む。

そして最終決着はなんとマヤの判断に委ねられたのだった。

「それでは、最後に今日のメインゲストの北島マヤさんに選んでいただきましょう。」

「えぇーーーーーー!!」

マヤは、頭の中がパニックになった。

"あたしにどちらかを選べって・・・!?"
"ど、ど、ど、どうしよう・・・。"

戸惑っていると、司会者が催促をし始めた。

「さぁ、北島さん。どちらとキスしたいですか? 早く選んでくださいね。」

人の苦しい胸の内を全く分かっていない司会進行の発言にマヤは思わず苦笑した。

"そんなこと言われたって・・・。分かってるけど、どうすればいいのよぉ・・・。" 決して桜小路のことを嫌いではない。しかし隣にいる真澄の視線が突き刺さる中では、とてもそんなことはできない。 だからと言って、好きで好きでたまらなく愛しい真澄の胸にそう簡単に飛び込んで行く度胸もない。 マヤは真っ赤になってもじもじしながらどちらを見ることもなく空ろな表情を浮かべていた。

マヤが一向に答えを出さず戸惑いと狼狽の色を濃くしている中、桜小路は一人余裕の笑みを浮かべていた。

"ふっ、速水社長とマヤちゃんはなんと言っても犬猿の仲だ。"
"これはもう僕が選ばれたも同然だ!"

世間では、マヤと真澄は仲が悪いことで通っている。 誰もが桜小路を選ぶだろうと確信していた。

と、そのとき、マヤは意外なことを言い出した。

「これから、お二人に質問したいことがあります。この質問の回答でどちらかに決めたいと思います。」

堂々と前を見据えて力強く言い放った。 その瞳は真剣そのものであった。

それはマヤ自身、自分の気持ちにけじめをつけるための賭けでもあった。
この機会を逃してしまっては、もう一生真澄に自分の想いを伝えることはできないだろう・・・。

"うぅん、もうどうなってもいい。とにかく、とにかく、今は、あたしの一番の気持ちを伝えたい・・・。"
"今こそ勇気をもってあたしを変えたい!!"

マヤはすーっと大きく深呼吸すると、真澄に向かって話し掛けた。

「速水さん、『忘れられた荒野』で、二日目以降に使ったスカーフの色は何色でしょう?」 「回答をお願いします。」

「え?」

真澄は驚いた。

"マヤ、それは一体どういうことなんだ・・・。なぜそんなことを俺に聞く?"

意表をついたマヤの問い掛けに正直どう答えていいのか焦った。

確かに真澄はあの芝居を見に行った。 台風の中、たった一人の観客として。 そのときに見たスカーフの色は・・・青・・・。 それが二日目以降で違っていたというのか・・・。

"ま、まさか・・・。"

真澄の顔は段々青ざめていった。

「さぁ、速水さん。早く答えてください。」
「さぁ、早く。」

マヤは、真澄を睨みつけるように、そして彼の心の中を覗うように回答を迫った。 そして彼から発せられた答えは・・・。

「答えられない。」の一言だった。

「なぜ?」

透かさず問い掛けるマヤに真澄は、大きく息を吐き出すと呟くように言い放った。

「そ、それは・・・俺は初日の青いスカーフしか見ていないからな・・・。」

そんな真澄の回答を聞くなり桜小路は自らの勝利を確信した。

"ふっ、マヤちゃん、僕とキスしたいからって、わざと速水社長が知らない問題だしたんだなぁ・・・。" "今だ、今こそ僕の愛の告白を・・・。"

桜小路は、真澄をチラリと見ると勝ち誇ったようにマヤの質問に回答した。

「マヤちゃん、二日目以降は僕たち赤いスカーフを使ったんだよね。」

そして、彼は自らのシナリオ通りにそっとマヤに近づき、彼女の手を掴んで自分の方へ向けようとした。

「マヤちゃん・・・僕は・・・君のこと・・・。」

ところが、マヤは桜小路から差し出された手を思いきり振り切ると、真澄の前に立ち彼の顔をじっと見つめ真剣な表情で話し始めた。
その瞳には強い光が差していた。
マヤは畳み掛けるように真澄に話し掛けた。

「速水さん、聞いてください。この質問は勝ち負けを決めるものではありません。初日と二日目以降でスカーフの色が違ったことは何を意味しているのか分かりますか?」

マヤの手には力が入り全身はプルプル震えている。
だんだん涙が滲み出てきた。
熱い想いが胸の中を駆け巡ってなかなか言葉が出てこない。
しかしマヤは怯むことなくさらに真澄に語り掛けた。

「あ、あなたが紫のバラの人だったら、簡単に分かると思います。」

「さぁ、どうなんですか。正直に答えてください。」

「・・・・・・・・・。」

真澄はやはり答えられなかった。

"マヤは・・・知っていた・・・。紫の薔薇の正体を?"

マヤにとっくにばれていると気付かされた真澄は、もうどうすることもできなかった。

しばらく沈黙が続いた・・・。

マヤは真澄が否定しないのを彼のYESの返事だと思い、思い切って自分の胸の内を告白し始めた。

「正直、あなたが紫のバラの人だって分かった時、とてもショックで眠れなかった・・・。でも、それと同時にあなたが今まであたしにしてきたことが、本当はあなたの優しさだって気付き始めて・・・。そうしたら、何時の間にか、あなたのこと・・・たまらなく好きになってて・・・。」

マヤは瞳を潤ませて必死に真澄に訴えていた。

「あたしが今回この企画を提案したのは何故だか分かりますか?」

「あたし、大人になりたかったんです。あなたに見合う大人の女性に・・・。速水さんにとってあたしはチビで子供っぽくて、演技だけが取り柄のただの女優でしかないけど・・・。でもあたしは・・・もう・・・あなたしか愛せない。あたしの心は、どうしようもないくらい、あなたのことで一杯で・・・他に何も考えられない。」

「だから・・・。だから、お願い。今だけは・・・せめてあたしに夢を見させて・・・。」

マヤは、一度自らの手で溢れた涙を拭い取ると、今までの思いのたけを全身で表現するかのように真澄に抱きついた。
そしてそっと真澄の首に手を回しその柔らかい唇を重ね合わせてきた。
それは・・・。
マヤなりに練習したのであろう、映画のワンシーンのような情熱的なキスだった。
真澄は突然のマヤの予想外の激しさに頭の中が真っ白になり、その柔らかい唇の感触が現実のものだと確信すると理性が完全に飛んでしまった。
そして真澄自身もマヤへの抑えきれない愛しさが込み上げてきて、彼女のうなじに手を差し込み夢中で唇を合わせていた。
そんなキスがもうどれくらい続いただろう。

マヤを解放すると、信じられないと言わんばかりの輝く潤んだ瞳が真澄の目に飛び込んできた。
真澄は一つ大きく息を吸い込み、一生伝えることはないだろうと思っていた想いを口に出す。

「マヤ、今まで黙っていて・・・すまなかった。」

「今日、俺がここへ来たのは・・・。君を愛する一人の男性として会いに来た。今回の君の企画を聞かされて、いてもたってもいられなかった。君を誰にも取られたくなかった。」

「マヤ、君はもうチビちゃんなんかじゃない。立派な大人の女性だ。今まで一度も商品だと思ったことはない。君を心から愛している・・・。もう、誰にも渡さない・・・。」

真澄はマヤを改めて自分の胸に閉じ込めると息も出来ないくらい強く激しく抱きしめていた。

マヤは、思いがけない真澄の告白と彼の強い締め付けに呼吸困難になりそうだった。
嬉しくて、切なくて、恋しくて、とても息が出来ない・・・。
そして、やっとの思いで出てきた言葉は・・・。

「今の言葉、ホントに、ホントに信じていいの・・・。あたしなんかでいいの・・・。あたしなんか、あたしなんか・・・。」

マヤの声は次第に喘ぎ声に変わっていた。

真澄はふっと優しく微笑むと、マヤの耳元でそっと呟いた。

「ああ、君でなきゃ、ダメだ・・・。」

辺りは相変わらずしーんと静まり返り、ただマヤのすすり泣く声だけがスタジオに響いていた。

誰も言葉を発するものはいない・・・。
突然起こった鬼社長とその所属女優の熱いラブシーンに皆我を忘れて見入っていた。
もう、完全に番組の収録は壊れてしまったが、二人の抱擁と熱いキスはこの後もしばらく続いていた。






収録後・・・。

「くぅぅぅ・・・。」

桜小路は、廊下で自らが晒してしまった恥かしい惨めな大失恋に一人拳を握り締めていた。

完全な惨敗だ。
最後の最後で大どんでん返しをくらい、挙句の果てに長年マヤを見守り続けてきた紫のバラの人である真澄との交際宣言。
桜小路の入る余地は全くなかった。
見事な敗北だった。
全身で身体を震わせ、怒りと敗北感に打ちひしがれていた。
すると・・・。

「おい、桜小路、何時までもそこに突っ立っててもますます惨めになるだけだぞ。」

どこからか噂を聞いて駆けつけた黒沼から声を掛けられた。
黒沼は桜小路の背中をバシバシ叩く。
彼なりの慰めであろう。

「北島と若旦那はなぁ、出会った時からこうなる運命にあったんだよ。」

「今日は、屋台で一杯やるか。朝まで付き合うぞ。」

桜小路は一回大きく伸びをすると、心の中に吹き荒れる失恋の嵐を噛み締め黒沼と一緒に行きつけの屋台へと去っていった。



そして、翌日のスポーツ新聞朝刊・・・。

『紅天女、北島マヤ 紫のバラの人との劇的な交際宣言!!』

熱いキスシーンが一面を飾り、数日後に放送されたこの特番はその年の最高視聴率を記録したことは言うまでもない・・・。






それから1年後・・・。

マヤは、久しぶりのオフに近所の川原でのんびり空を見上げていた。
雲ひとつない晴天。
心地よい風が優しく身体を包み込んでいく。
激動の1年だった・・・。
色々なことがあった・・・。
真澄の隣にいた美人ピアニストの杏子さんに嫉妬したこと。
大胆な水城の提案に身を委ねたこと。
そして、思いがけない突然の真澄の行動と自らの大胆な告白・・・。
今、思えば嬉しい、恥かしい、そして甘酸っぱい思い出だ。

忘れられない過去の記憶と、共に手を取り合って生きている大切な恋人・・・。
もう、10年も前から、そっと優しく見守ってきたあなたは・・・。

あたしにとって掛け替えのない・・・大切な人・・・。

愛しているとか大好きとか・・・そんな簡単な言葉ではとても表現できない・・・あたしの大切な宝物。
そういえば、最近そんなCMと歌があったっけ。



〜〜〜 あなたに あえて ほんとうに よかった 
うれしくて うれしくて ことばに できない 〜〜〜




――― きっかけを作ってくれた杏子さん。本当にありがとう・・・。
あたし、幸せになります。 ―――




見上げた空は何処までも何処までも、青く果てしなく透き通っていた・・・。



6.27.2003



<FIN>






□しずかさんより□
日頃、杏子さんには色々楽しませて頂いているので、恩返しのつもりでちょろっとパロもどき書いてみました。
あたくし、こういう人間の感情剥き出しの文章を書くのは、マジで初めてなんですが、うぅ、読みにくいかも……。 しかも、かなり恥ずかしい……。
はじめは、もっとシンプルな内容だったのに、書いてるうちに段々話しが二転三転してきて、挙句の果てには、何が言いたいのかよく分からん、奇妙なパロが出来上がってしまいました……。






□杏子より□
妊婦のしずかさん、出産予定日は6月26日、そして最終回は6月27日と、まさにものすごい盛り上がりを実況中継をさせて 頂きました。こんなことは、もう二度とないでしょう。貴重な体験でした。
この妊婦を襲った、妄想菌が胎教として、お子様にどのような影響を与えるのか、お子様の成長、菌の成長、ともに興味津々でございます。
デビュー作で全5話という超大作、しずかさん、お疲れ様でした。
「今をときめく美人ピアニスト」などという実物を見たら、石を投げられそうな大役を仰せつかり、胃がキリキリと痛みました杏子ですが、最後の数行、思わずジワリと涙が出てしまいました。
しずかさん、本当にありがとう!!立派な赤ちゃん産んでくださいね!!


top