| 十六夜
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| written by まゆ
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※※このお話は杏子の”畳に堕ちた月”の続編となっております。そちらを先に読みますと、より一層お楽しみ…、というかワケが分かります。
満月から一夜が過ぎて、澄んだ夜空にほんの少し身を削った月がかかっていた。 三味や太鼓の音、人々の笑いさざめくにぎやかな声が夜風に乗ってマヤのいる部屋にも流れ込んでくる。 今夜は大身の御曹司が総揚げの大盤振る舞いをしているらしい。だが、その宴の席にマヤが呼ばれることはない。 「この子を他の客の前に出すな」 花魁でも囲うかのような大枚と共にそう言い置いた客の言を楼主は律儀に守っていた。 そのいきさつをマヤもぼんやりとは知っている。なじみ客のひとりとていない自分が太夫にも劣らぬ扱いを受けていられるのも、ひとえにその男の財力あればこそ、と。 初めてその男の腕の中で女の花を咲かせた夜、満月の夜毎の逢瀬を誓い合った。男は確かにずっとその約束を守って、望月の明るく輝く宵をマヤと共に過ごしていく。 その契りは夜空に月が浮ぶ限り続くものだと思いたかったが、それがうたかたに過ぎぬものであることもマヤは知っていた。 「大都屋の若旦那さん、本当にマヤちゃんにご熱心だね」 「あんな子供みたいなののどこがそんなにいいんだか」 「でも、あれほどの大店の若旦那なら、いずれ身請けだってしてくれるかもしれないよ」 同輩たちの勝手な噂話がマヤの耳にも入ってくる。嫉妬と羨望交じりのその声がマヤの胸を刺す。 吉原は袋小路。一度大門をくぐったら、よほどのことがない限り出られはしない。命尽きたその時も浄閑寺の無縁仏になるだけの苦界に生きる女たちにとって、マヤの身の上に起きている幸運が我が身にも起こりはしないかと、はかない夢を委ねるその気持ちがマヤにもわからなくはない。だから聞こえよがしの嫌味も、そっと目を伏せてやり過ごす。それをまた、羽振りのいいお方はお高く止まって、となじられるが、マヤは言い返す言葉もなくじっと唇を噛むばかりだ。 (身請けだなんて・・・そんな大それたこと、あるはずがないのに・・・) 身よりもない遊女ふぜいが、あの大店の若旦那相手に本気になってどうする気だ、と細くなっていく月を見上げては己の身の程知らずを悔いた。 だが、一度姿を消した月が再びその身を太らせ始めると、マヤの胸に顔を埋めながら「愛している」と囁く男の言葉をただ信じたくもなってしまう。 しかし、風の噂では、男は貧乏公家のお姫様との祝言が近いらしい。町人と公家、といっても近頃では珍しくもない縁組だ。 堂上家だ、清華家だと言ったところで、お公家衆の手元不如意は隠しようもない。その家柄をほしがる裕福な町人に娘を降嫁させて、その援助で家格を保とうとする公卿も少なくなかった。 このご時世、金さえあればなんだってできる。士農工商の一番下に置かれた商人であ るはずの あの男も、父親が金を積んで御家人株を買い与えたから、身分の上では畏れ多くも苗 字帯刀の お武家さまだ。これでたとえ貧乏でも高貴なご出自の奥方さまを迎えれば、そのご威 光で上様お目見えの旗本の身分だって手に入るのだろう。 (・・・・・・そうなれば、満月をともに愛でる夜など永遠に訪れなくなる・・・・・・) マヤは深い息を漏らすと、そっと障子を閉めた。これから夜毎細くなっていく月を見上げるのが辛かった。 さして広くもない部屋には、絹の布団が整えられている。この上で腰が砕けるかと思うほどに睦みあったのは昨夜のことだった。 男がマヤの肌に残していった赤い花は、今夜もまだ色褪せずにいる。マヤは、紅絹の襟元を開いて白い乳房に咲く一輪を指でなぞった。また一輪、そしてまた一輪。 細い指がなめらかなふくらみの上を滑っていく。男の肉厚な指先とはまた違う感覚が襲ってきて、マヤは思わず声にならない声を漏らしていた。 片膝を立てた足の、その付け根の奥がじんと熱くなったのがわかった。 初めての夜、マヤの両の手首を縛り上げたあの紫の帯をマヤはゆっくりと解いた。襦袢の合わせ目が割れて、あちこちに紅痕の残る肌が行灯の弱々しい灯りに照らし出される。 昨夜、男は太く固く勃ちあがった己の分身で思うさまマヤを貫き、その中で白い精を降らせた。男の昂ぶりを受け入れた部分は今なお痺れるような、ひりつくような余韻をとどめていて、身じろぎひとつでマヤの口に艶を帯びた息をつかせる。 マヤは、右手は胸元を這わせたまま、左手をそっと足の間に滑り込ませた。淡い茂みをかきわけて、その奥に広がる泉にゆっくりと指をつきたてていった。 そこはすでにたっぷりと潤っていた。 遊女にとってはただの商売道具でしかないその場所も、マヤには、ただひとりの男のたぎる想いを受け止めるためだけに存在するものだった。 今夜、男のおとないはない。マヤの理性はそれを知っている。だが、体は正直に男を求め、貪欲なまでにその情欲を受け入れる準備に余念がない。 留まることを知らない愛液がマヤの腿の内側をひとすじ伝った。ぬるりとした手触りに導かれるままに股間をまさぐっていた左手の指先が、ほどなく小さな突起を探し当てたのは偶然ではなく、本能が導いたからに違いない。 人差し指と薬指とで花弁を大きく押し開き、その奥で待つ蕾を中指で静かになでていく。男の舌が舐め上げる感触を思い出しながら、指の腹の肉感を快楽の中枢に押し付けていく。 喉を喘ぎ声が駆け上ってくる。 耳の底で男の声が呼びかけている。 「マヤ、声を聞かせてくれ」 指の動きが早くなる。右手に玩ばれていた淡い紅色の乳首がぴんと存在を主張する。それをしおに、マヤは右手も左手の横に滑り込ませた。 どうやったところで男が与える悦楽を味わえるはずはないとわかっているが、それでももう指の動きを押しとどめることはできなかった。 中指を精一杯伸ばして蜜壺の内壁をかき回す。さらに人差し指、薬指と指を増やしていく。あの男が差し入れてくるものに比べるべくもないが、それでも指にまとわりつく粘膜の熱さ、そしてこぼれ出すしたたりがマヤを朦朧とさせていく。 「あぁ・・・んぁぁぁ・・・」 下半身がぶるぶると震え、足の力が抜けていった。呼吸が荒くなり、目の前で白い光がちかちかと点滅する。 紅色の花びらがこぼした甘露がマヤの両手をしとど濡らした。 紅絹の襦袢を肩に羽織っただけの姿で、マヤはそのままぼうっと達したあとの余韻にひたっていた。 ほてった体が夜風を求めて、マヤは細く障子を開ける。 総揚げのお大尽遊びはまだ続いているらしい。宴の喧騒が再びマヤのいる部屋にしのびこんでくる。 晴れ渡る夜空に十六夜の月。 こんな体の疼きと物思いを教えた男のおもざしを、マヤはさえざえと青白く輝く月の面に見た。 中空に身を晒すいびつな丸に、吐息もおのずと深くなる。 今宵十六夜。満月まではまだ幾夜。 哀しき遊女は今宵もひとり帯を解く。 2003.05.24 ![]() □まゆさんより□ いろいろとお世話になっている杏子さんに20万ヒットのお祝いを何かお届け したい、と考えてはいたのですが、なかなかこれというアイディアが浮ばずに 時を過ごしておりました。 そんな中、おけいさんの美麗イラストと杏子さんの流麗な小説に出会って、 最後まで読み終わらないうちにもう「これの続き、書きたい!」と思い始めて いました。 満月が、真澄に身を委ねて幸せやぬくもりを味わう夜の象徴ならば、 欠けていく月に遊女であるマヤの現実の悲哀を投影したいと思い、 欠け始めた月を描いてみました。 遊郭についてはにわか仕込みの知識ですので、史実と違う点などが ありましたら笑って見逃してやってください。 せっかく杏子さんがふたりを幸せにしてあげたのに、また悲恋ちっくに しちゃってごめんね〜。 まゆの地下ものを好きと言って下った杏子さんに、心からの愛をこめて 捧げます。 ![]() □杏子より□ 以前からまゆさんの地下が好き好き大好き、愛してる!!と一方的にラブコールしてた杏子ですが、 なんとも贅沢に、拙作の続編!!という形で頂いてしまいました。恐縮至極、天にも昇る。 最初の一文から、遊郭の哀愁ただよう雰囲気に引きずり込まれますね、サスガ! それにしてもひとつの妄想画から、こうも連鎖反応が生まれるとは、妄想菌の偉大さに、感嘆するのみ。 あらためまして、おけいちゃん、ありがとう!! ![]() |
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