| 太陽と月に背いて・外伝 1
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| 〜君にふれるその指〜
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真澄の体から、タバコの匂いが弱く漂う距離。
真澄の長い指がスッと伸び、その美しい指先が、マヤの顔の輪郭を辿っていく。額からこめかみへ、そして頬を下り、顎先へ辿り着くと、床に対して垂直な角度になるほどに、顎を持ち上げられる。途端に呼吸が苦しくなり、顎先の細かな震えがそのまま真澄の指先に伝わってしまうのが、なんとも心もとない。 きっともうすぐ、両手の指では数え切れないほどの果てしないキスをする。 きっともうすぐ、誰にも見せたことのない自分をこの人に晒すことになる。 それから…。 ぐるぐると回る思考を優しく邪魔するキスをされる。 優しい、優しい、キス…。 もっと、野獣のようなキスをされるかと思っていた。そうやって、見境なく求め合って、激しく崩れていくのかと思っていた。映画でみたベッドシーンはいつもそうだった。けれど、真澄はただ優しく優しく、唇の皮膚を弄ぶようなキスをする。時折、キスの合間に伏せた睫が揺れ、瞳の中を覗かれる。目が合っただけではなく、心の中まで覗かれたような気分になる。 覚悟は出来ているのか…と。 未知のものに対する不安や期待がないわけではない。一秒ごとにそれらが体中を駆け巡っているのは事実だった。けれども、そことはもっと別の場所で、もっと別の意味で、例えば心臓の裏側あたりから、じわじわと何かが湧き出てくるような感覚。そして、ゆっくりと縛られていくようなこれは、錯覚でも幻覚でもなくて、心臓の裏側から始まって、確実に一つ一つの細胞を征服して、体中へと拡散していく。 その正体を突き止めようと、虚ろな視線で真澄を見つめた瞬間、同じようにこちらを見つめた真澄と目が合う。 その瞬間、何かが壊れる。一瞬、自分になにが起こったのかわからなかったマヤであるが、それまでの優しい真澄の物腰とは異種の力強さで、体を反転させられ壁際に押し付けられる。 息が乱れ、壁に押し付けられ胸を潰され、呼吸の自由が奪われる。 背中から肩に置かれた真澄の手が熱い。突然視界を遮られる形となり、目に入るのは壁紙の模様だけ。 と、真澄の指の腹がゆっくりと、うなじのあたりをなぞる。短く切った髪の下からその白いうなじはあまりに無防備に晒されている。 まるで背中に目があるように、真澄の熱い眼差しを背中で感じる。 ワンピースの背中のふちのラインを真澄の指が何度もなぞる。ゾクゾクするような震えが、マヤの背中を駆け上がる。 まるでゆっくりと、じわじわといたぶりながら、獲物をしとめていく野獣のように…。 「白くてとても綺麗だ…」 真澄は囁くようにそう言うと、そっとそこへ唇を這わせる。ハッと思わず音を立てて、マヤは息を呑む。 「そ…、そんなの私わかりません。自分じゃ、見えないし…」 小さな反抗をすることによって、精神の均衡を保とうとマヤは試みる。そんなマヤの心を見透かしたように、真澄は小さく息だけで笑うと、這わせた唇から皮膚を強く吸い上げる。途端に白い素肌に赤い弱い印が浮かび上がる。 「だから、君は無防備であぶないと言うんだ…。知っているのは俺だけでいい…」 決して意地悪な口調ではなかったが、どこか所有の意思を混じらせた声で真澄は言う。 すでにマヤの膝は細かく震えだす。しかし、自分の体の震えさえ気づかないほどに、マヤの感覚も精神もすでにどこかへ飛ばされていた。 後ろのファスナーに真澄が手をかけ、ゆっくりとそれは引き降ろされる。そっと真澄の大きな手がぱっくりと開いた割れ目の向こうに見える白い素肌に割って入り、その熱い手のひらがマヤの背中に置かれる。ゆっくりと意思を持って自らの背中で動き始める真澄のその手が、背中の皮膚の造りさえも変えていくような錯覚をマヤは覚え、途端にお喋りになった皮膚の細胞の一つ一つがうるさくなる。 後ろからウエストに回された真澄の手が、器用にマヤの細いベルトを外す。床に放り出された白いエナメルのベルトは、白い蛇のように柔らかい円を描く。 真澄の両手がマヤの裸の肩に置かれ、両腕をなでるような動作で、ワンピースが肩から落とされる。あっという短い叫びとともに、マヤは必死でそれを掻き集めようとするが、白いワンピースは、マヤのひじのあたりで中途半端に行き場を失う。マヤは両手でワンピースの前を掴み、胸元に寄せ上げるが背中は完全に真澄の目の前に晒される。 真澄は背中からではその表情は伺い知ることは出来なくとも、きっと羞恥の余り真っ赤になって俯いてるマヤの顔が手に取るようにわかる。ぐっと、体をぴたりと沿わせるように寄せると、自らの体と壁の間にマヤを閉じ込める。そっと白いスカートをたくし上げ、膝の横の位置から太もものあたりへと指を沿わせる。 「服を脱ぎたくないのか?」 からかうようなその口調にマヤは、完全に答えを見失う。 「え…、あ、あの…、恥ずかしいし…」 太もものあたりをまさぐる真澄の手は、上っては下り、上っては下りと、ゆっくりと動きながらも、上り詰めるたびに、その侵入距離を伸ばしていく。 「それは困ったな…」 少しも困った風でなく真澄は言う。 「俺はどちらでもかまわないんだがな」 「え?」 マヤは驚いて動かせる限りに首を動かす。しかし、もちろん真澄の表情を伺いしることができるほどに、首を回すことは出来ず、ただ横向きになる。そんなマヤの横顔に真澄は顔を寄せると、唇の端を奪う。 「君が脱ぎたくないんであれば、無理やり俺が脱がせるまでだ」 その瞬間、触れた素肌から伝わるほどにマヤの体が強張ってしまったのを感じて、真澄は苦笑する。 「嘘だよ…」 そう言って息を吹きかけるようにして、マヤの耳を噛んだ。耳で感じる真澄の吐息は、唇で感じたそれよりも、皮膚で感じたそれよりも、さらに温度が熱い。ガクガクと目に見えるほどに、肩を震わせ体をよじらせるマヤのその姿に、真澄は口の端に笑いを浮かべる。 「そこが…、弱いのか?」 マヤの答えを聞くまでもなく、真澄はマヤのその小さな耳たぶに舌を這わせる。舌から伝わる唾液と、吹き込まれる吐息の熱さに、マヤは完全に体が痺れていくのを感じる。 「手を離せ…」 そう言って真澄は、ワンピースの前をしっかり握りこんだマヤの固い指先をほぐしていく。耳に送り込んだ吐息と絡みつく指の魔法で、いつしかマヤの指先から力が抜け、白いワンピースはマヤの足元に衣擦れの音とともに、ふわりと落ちた。 真澄はマヤの背中に唇を這わせると、ブラジャーのホックを口で起用に外す。マヤがそれを押さえてしまう前に、あっという間に肩ひもを外し、同じように床に落とす。 空気に晒された胸に真澄の手が後ろから伸びる。 「…あ…あぁ…」 声にならないほどの喘ぎがマヤの口から漏れる。意識の網にもかからないほどの小さな喘ぎ。しかし、それは確実に真澄の雄としての本能を煽る。 ゆっくりと両乳房を真澄の大きな手が揉みしだきながら、ズボンの下で抜き差しならなくならないほどに膨れ上がってきた自分自身をマヤの腰のあたりに押し付ける。 「あっ」 その異質な感触にマヤは思わず短く、声を上げる。そのまま真澄はマヤの首筋に唇を沿わせると、低い声で囁く。 「君を欲しがっている…」 乳房を揉みしだく左手はそのままに、真澄の右手が腹部を下っていく。ショーツの内側に侵入し、秘所を探して指が伸びる。一瞬マヤの体が強張るが、真澄の舌による執拗なまでの首もとや耳元への愛撫に、すぐにそれも無駄な抵抗に終る。 真澄の中指がわざと急所をずらして、入り口の表面だけをわずかに撫でる。その動きは、迷いもなく全てを知り尽くしているようで、無駄がない。 中指の腹に触れたその感触に、真澄はにやりと笑う。 「君も俺を欲しがっている…」 真澄のその言葉にマヤは一気に羞恥のあまり、熱くなる。それが、真澄が自分を追い詰めるテクニックだとも知らずに…。 「そ…、そんなこと…」 言葉が続かず、語尾もあやふやなまま途切れてしまう。 「ないとでも言うのか?」 意地悪くそう言った瞬間、真澄はプチャリとわざと中指でマヤの入り口で卑猥な音を立てる。 「よく濡れてる…。いい子だ…」 ゾクリとするような声でマヤの耳もとで真澄はそう囁くと、ゆっくりと指を前後に動かす。けれども、その前方でだんだんと赤く腫れ上がるその敏感な突起部だけは、確実に避けて。 マヤの膝はすでに眼に見えるほどにガクガクと笑っている。立っているのが不思議なほどだ。真澄は乳房を揉みしだいていた左手を、マヤのその細い腰に回し、しっかりと支えた上で更に、熱い塊となった自分自身と密着させる。 マヤ自身がどうしようもないほどに欲情するまで、真澄は追い詰めるつもりでいた。それは元来の自分の性的趣向でもあったが、一度に壊すにはあまりにももったいな秘宝でもあったからだ。 時間をかけて、手をかけ、確実に堕とす…。 それが8年もかけ、ひたすらに愛しつづけた女に対する真澄のやり方だった。 2003.3.20 ![]() |
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