太陽と月に背いて・外伝 3
〜君にふれるその指〜
限界まで張り詰めた緊張感が弾け、マヤの体の全ての筋肉が緩んだように、ぐったりとなる。こんな時、女の体はどこまでもぐにゃりと柔らかくなる。
溢れ出た蜜を舐め上げるように、真澄がべろりと舌を這わせると、水から上がった息絶えかけた魚が,最後に尾ひれを震わせるように、マヤの体もビクリと大きく一度震えた。

「まだ…、終ってない」

真澄のその低い声に、マヤは一気に呼び戻される。瞑っていた目を開けると、目の前にある上体を起こした真澄の顔は、予想外に穏やかで優しかった。

「キスをしていいか?」

「え?」

なぜそんなことを今さら聞くのだろう…。一瞬訝しく思ったマヤだが、恐らく性器に触れたその唇で触れていいか、という意味だと察した。言葉の代わりに、コクリと頷く。
先ほどまで執拗に秘所を舐めまわしていた唇と、同じ唇とは思えないようなキスをされる。ついばむように、唇の皮を挟みながら何度も短いキスをする。キスの合間に瞳を覗き込むように、熱い視線を注がれる。その視線の先に居るのが自分であるという、この高揚感。
真澄のキスの速度が上がっていくのを感じる。なんとかついていこうと、マヤは自分なりに複雑な感情をそこへ織り交ぜていく。しかし、真澄の舌の動きも、求めた瞬間にかわされる唇の動きも、全ては自分よりも上手で、マヤの体内にもどかしさのうねりが走る。
一度は破裂して吹き飛んでしまったような、自分のあの熱を帯びた感情が、再び体の中で蠢き出すのをマヤは感じた。

「…ん…、あぁ…ん」

鼻腔からこぼれ落ちたような淫らな声が、キスの隙間から落ちていく。次第に唾液が行き交うような音がうるさくなって、繋いだ手を何度も握りなおしてしまう。無意識に膝をすり合わせ、腰をくねらせ、満たされない欲求をマヤはどうにかやり過ごす。そんなマヤの様子を見て、

「そろそろ限界だな…、俺も…君も…」

真澄が苦しげにそう呟いた瞬間、真澄の膝がマヤの足を割る。

一瞬マヤの瞳が大きく見開かれ、不安に揺れ動く。

「大丈夫だ…。俺も手加減するつもりだ…。だが…」

そこまで言って真澄は苦笑を漏らす。

「手加減するべきなのは君のほうかもな…」

マヤは意味が分からないという風に、訝しげに瞬きをするが、すぐに股間にあたった硬い異物に身を硬くする。
ゆっくりと、ゆっくりと侵入をはかるその異物に、マヤはそこだけ窒息してしまうような圧迫感を覚え体を緊張させる。

(無理だ…、こんなの入るわけない…)

快感とはほど遠い、その体を切り裂くような焼ける痛みに、目を閉じる。

「マヤ…、最初はどうしても痛い…。我慢してくれ…」

そう言った真澄の表情が同じように、苦しみに歪んだものだったので、マヤは大きく一度息を吐いて、もう一度その侵入を受け入れるよう試みる。爪が食い込むほどに真澄の腕を握り締めてしまう。

少しずつ、少しずつ、結合を深めるたびに、痛い、と叫ぶ代わりに、マヤはその指先に力を込めて、真澄の腕を掴んだ。
完全に真澄自身がそこへ埋め込まれた瞬間、真澄はあまりの締め付け感に、低く唸るような声を飲み込む。
きつく閉じた目の端からこぼれ落ちた涙を、真澄はそっと舌でぬぐう。

「マヤ…入ったよ…」

一時の安堵感…、けれどもマヤと言えどもこれで終わりでないことぐらい分かっていた。これから襲ってくるであろう嵐のような律動の中で、マヤは自分がその痛みに耐えられるのか、不安に思う。

「は…やみ…さん」

マヤは大きく呼吸をしながら、か細い声をあげる。

「一緒になれて嬉しい…。
でも…、愛って、痛いんだね…」

そう言った瞬間、堪えていた涙がまた一筋、細く頬を伝わる。

真澄はそんなマヤの生ぬるい涙をそっと親指でぬぐいながら、マヤが呼吸の度に締め付ける異様な快感に、微動だにせず耐える。 ようやく辿り着くことの出来たその場所で、欲望と情熱の赴くままに自らを突き動かしたい思い、そしてもう一方で 決して傷つけたくなどないという矛盾した思い。真澄は自らの体の下に組み敷かれた、その小さな体をどうすることも 出来ずにその涙を拭う。
短く唇の上に音を立てて、吐息を落とす。
顔を離し、もう一度その瞳の中を覗き込む。
黒い瞳が揺れる。
もう一度、一度目よりも長く、唇に自らのそれを重ねる。
食い込むほどに腕を掴んでいたマヤの指から力がぬけ、その細い白い腕が、真澄の首に回される。

「速水さん……、大丈夫、あたし、なんにも怖くはないから……、速水さんの思うようにして……」

そう言ってマヤの指が、真澄のうなじの辺りの髪をまさぐった瞬間、真澄の最後の理性の扉が堕ちる。

決して、今まで取り乱したところなど自分には見せたことなどなかった真澄の喉元からもれ聞こえる、 その低い唸り声は、嫌でも真澄が雄であることをマヤに意識させる。
けれども、それを不快だとは思わない。
その低い唸り声や、乱れた息遣いこそ、自分が女としてようやく真澄の相手になれたことの証明に思え、マヤの意識を、 感じる痛みとは別の場所へと誘(いざな)う。
始めのうちは、マヤの体への痛みを考慮してゆっくりと動いていた真澄のその動きに、マヤはもどかしささえ 感じるようになる。貫かれ、そして異様なまでにゆっくりとそれが抜かれていく間、すぐにまた貫かれることを 望んで、体内にもどかしさの螺旋が走る。うずくような子宮のその変化が、マヤの瞳の色を変える。

「速水さん……、もっと……」

吐息と喘ぎの合間から、それは唇を伝ってこぼれ落ちた。
けれども真澄は、すぐにはその律動を速めない。確実にマヤの瞳に違う色が浮かび始めたのも、そしてますます収縮を 強め始めたぬかるんだ場所の変化も、見逃すことなく捉えながら、けれども確実に追い詰める方法は変えない。
貫く時間の何倍もの時間をかけて、ゆっくりと真澄は抜き出る。完全に出て行ってしまうのではないか、離れてしまうのではないかと相手に思わせるほどの、ギリギリ の場所まで自らを引き抜き、そしてマヤの表情を見つめる。
哀願するようなマヤのその表情に、満足気に真澄は一気にマヤを貫く。

「…あぁっ……!!」

一瞬だけ、ほんの一瞬だけ満たされたことに対するマヤの喘ぎが、部屋に響く。けれども、真澄はまた再び異常に緩めた 速度でマヤから出て行く。ゆっくりと内壁をこするように動くその動作に、マヤはついに涙ながらに真澄を求める。

「おねがい…。もっと……」

(もっとなんだ?)

真澄の瞳が試すように問う。言葉の代わりに、マヤは真澄の腰にすがるように手を回し、自分のほうへ引き寄せる。

生まれて初めて、男というものを自分から求めた……。

マヤのそのぎこちない動作に真澄は満足を覚え、そしてあとは本能の赴くままに、律動を速めて行った。



意識が飛び散る瞬間。
自らのどこから出てくるのか分からない淫らな叫び声が、闇夜に砕け散る。

顔のすぐ横で、肢体を支えるように突かれていた真澄のたくましい腕が、ガクリと折れる。そのまま、息もつけないほどに きつくきつく抱きしめられた。

分かっていたことはただひとつ、決して自分は一人ではなかったということ。
そして、もはや引き返せない場所まできてしまったということ……。



不安と安心が半分ずつ。



穏やかに眠る真澄の寝顔を一度見た後、自らの首の下に横たえられた真澄の腕をそっとたどる。辿り着いた先の その大きな手のひらを、両手でそっと包み込むと、そのぬくもりを逃がさないよう抱きしめたまま、マヤは眠りに堕ちていった。


愛している、という言葉はなくとも、今はこのぬくもりを信じていたい……。





不安と安心が半分ずつ……。



2003.5.25



<FIN>








連載モノでこれほど穴を開けたのは、初めてのことでした。懲りずに待っててくださった方、ありがとう!! 優しい穏やか〜な速水さんが好きな方には、申し訳ありませんが、私の好みとして、イジワルで且つ余裕のあるオトコというもにに ひじょーーーに弱かったりします。
微妙な終わり方をしてますが、これはそのまんま、”太陽と月に背いて”の10話の外伝ですから、続きは本家の方に 脳内で飛んで頂いて、すっきりして頂くとよろしいかと……。
とりあえず、完結できて、本当にホッとしております。






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