written by yuka
暖かい春の日だった。とても穏やかな春の海を私はずっと見ていた。その視線の先に、私は愛しい人の姿を見つけた。スーツに身を包んだ彼は少し寂しそうに海を見ていた。
ふいに、彼が振り返る。私の姿を見つけた彼が、「こっちへおいで。」と手招きしてる。
私はとまどいながらも、彼のもとへと駆け出していた。
「不思議だな・・・。ついこの前まで荒れていて溢れ出しそうだったこの海が、春が来たとたんに、こんなに穏やかな海に変わってる。」と彼が私に語りかけた。
「そうですね・・・。こんなにも優しい海を見ていると、なんだか自分の存在が小さく見えてきちゃいます。でも、私は速水さんとこうして海を見てることが不思議です。」そういうと、速水さんは本当に可笑しそうに声を上げて笑った。  
「君の言う通りだな。俺も君と並んで海を見るなんて、想像もしてなかったよ。でも、一人で見てると悲しいから・・・君がいてくれてよかったよ。」
「私もです。私も速水さんと海が見れてよかったです。」私は心からそう思っていた。 すると彼が私を抱きしめて言った。
「ありがとう。」と・・・。




それから5年。私は彼に会っていなかった。人づてに、彼がかつてからの婚約者と結婚したと聞いていた。はじめから彼とは歳も育った環境も、住む世界も違っていたのだ。だから仕方がないと思っていた。私もすでに大人になり、あの頃の幼い恋心などいい思い出になっているはずだった。けれど、あの5年前の出来事を思い出さずにはいられなかった。
『あの海が見たい』そう思った私は、駆け出していた。そこには、5年前とはかわらない海があった。その瞬間、私はいるはずもない彼の姿を見つけた。あの日と同じ姿で、彼もまた海を見ていた。私は彼の名前を呼んだ。すると、彼が振り返る。
「また君と海を見るためにこの5年、頑張ったんだ。妻とは別れたよ。君のことが忘れられなかった。君を愛してる。結婚してくれないか?」彼が照れながら言う。
私は大きくうなずいた。そして叫んだ。「私も速水さんを愛してる!!」  
キラキラと、輝く海辺に私と速水さんの想いの絆が、春の海と一緒に、波寄せていた。   
 5年前の記憶が、私たちを包んでいた。



3.23.2003



<Fin>










□yukaさんより□
いつも楽しく読ませて頂いてます。
私も書いてみた くなって、書いてしまいました。





□杏子より□
なんだかとても幻想的なお話で、思わず目が遠くを見てしまいました。
海を見ると、心が落ち着くという心境よくわかります。バルト海に面する小さな港町に5年間住んでいたのですが、誰も居ない凍ってしまった冬の海の上をずっと歩いてみたことがあります。シチュとしてはもちろん失恋系だったのですが、数ヵ月後春になって、氷が融けて流氷になって流れてきた時、失恋したときは泣かなかったのに、初めて思い出したように泣けました。
って、あれ?なに、身の上話してるんでしょう。でも、なんとなくその思い出が思わず甦ってしまったもんで…。
失礼いたしました。
yukaさん、綺麗なお話、ありがとうございました。





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