夜桜
written by ●号
とある用事でマヤが社長室にお越しだった。
用件は水城くんが手早く済ませてくれた。このあとのマヤのスケジュールはすでにチェック済み。今4時半だから時間はたっぷりあるぞ・・・・・。

久し振りだ・・・・君に会うのは・・・・・
あらためて上から下までながめる。
今日は可愛いワンピースだ。気のせいか化粧してるのか?・・・・
最近女の子らしくなったなあ。20歳だって言ってたな。ん?そういえば成人式に振袖送ったんだったなぁ・・・・・俺としたことが、忘れるとは。聖に記念写真でも撮っておくように言っておけばよかった・・・・・。残念だ。
さぞや・・・・・ 
と、一瞬目があった。あわてて俺は視線を窓の外にうつした。

眼下に見えるビルとビルのあいだに、ピンク色の桜がちらほら咲いている。そういえば昼のニュースで花見客が大勢賑わっていたな・・・ディナーに誘うのは中止だ!!。と、俺はにんまり微笑んだ。

「突然だが、花見に行かないか?○○○の川沿いは夜桜がきれいだそうだ。」
「い、いいです。桜ならアパートの近くの川にもいっぱい咲いてますから。」
どうも様子がおかしい。なんだかこないだの●●から避けられてる気がする・・・・・俺と花見なんて滅相も無いのか?
いったい数分間の抱擁は何だったんだ?嫌いじゃないけど、好きでもないのか?・・・・?11も年上だと対象外なのか?まさか父親がわり?ただの赤面症だったのか?内気なだけか?・・・・・ああ、君って子は理解不能だ。

 絶対確かめてやる。今夜!!

「・・・・そうか、残念だな。夜店とか、屋台とか、いっぱい出てるそうなんだがな?桜も今日あたりが満開で明日からは雨だそうだ・・・・・・」と、しらじらしく窓の外を見てタバコをふかした。
「ええ〜〜〜そうなんですか〜〜?」とおもいっきり目をくるくるさせていた。
絶対行くって言うぞ。
「行きます、行きます!夜桜!!」
・・・・・・・言った♪








「わあ、人がたくさん!!」

行列をなすほどの大勢の見物客に 何度もぶつかり、はぐれそうだった。背の低いマヤはすぐに人ごみに埋もれ見失ってしまいそうだ。
「ここは初めてか?」
「はい。夜桜の通り抜けなんて来た事ないです。すごいんですね?」
「そうだよ、遠くから来る人もいるらしい。」
「迷子になりそう・・・・」

「じゃ、こうするか?」

と言って、可愛い手を握りしめた。ふんわりと柔らかい感触が俺の手の中にひろがる。
つかんだ瞬間あばれだしたがそうは簡単に離すものかっ!!
「嫌です、離してください!!、子供じゃないんですから、迷子なんてなりません!!」と必死でもがく。
「子供じゃなくたって、手はつなぐだろう?恋人同士とか?」
突き飛ばされないように、しっかりと強く握った。
マヤの一瞬顔色が変わった。
「こ?、こいびと、どうしなんか・じゃ、ありま・せん・・・」といってうつむいた。

仕方ない、無理強いしてもますます嫌われるしな、
離してやるか・・・・・
俺はそっと、手を離した。
「じゃあ、ちゃんとついて来るんだぞ?」








「ほら、変わった桜だ。楊貴妃って言うんだそうだ」

枝にはそれぞれの品種の名札がぶらさがっている。
「へえぇ・・・・中国のお姫様ですよね?楊貴妃って。綺麗・・・・」
「ああ、そうだ。気品あふれる女王の華ってことかな?
そうだ!・・・・紅天女って名前の木は無いかな?」
「あるわけないでしょ?!!」 案の定、怒った。 プーッとふくれて。
「なんで怒るんだ?ほら、あれじゃないか?」

真澄の指差すほうには小さな背の低い、濃いピンクの桜をみつけた。

幻想的にライトアップされた立派な木々にはさまれて、その低木は枝の先に細々と花を咲かせていた。
真澄は、小枝の先についた可愛い花をひとつ ちぎって匂いをかいだ。
「いい匂いだ・・・・まだ幼いんだ・・・この木は・・・・」と細い枝からこの小さな花を手折ったことを少し後悔した。
「可愛いな......」と優しい声がする。
今日の速水さんは優しい・・・

「・・・・まるで私みたい・・・・・この木・・・・・」

まだ漠然としか役をつかめていない私。未熟な自分。背のちいさい自分。豪華絢爛にはほど遠い自分・・・・・。女性としての魅力もない自分・・・。
紫の薔薇の人、速水さんがいなかったら、ここまでこれなかった人間だったかもしれない。あなたに助けられたからここまで来れた・・・・。お礼もろくにしてないし、いつだって喧嘩口調になってしまう・・・。
今日こそ・・・お礼いわなくっちゃ・・・・

「ん?どうした?はかない顔して?今にも散りそうだぞ?」

と、心配そうにみつめてくれる。そうよ、いつだってそうだった。心配して、世話やいて、おせっかいして、影ではげましてくれて。
どうしてなんですか?
どうして私なんか誘うんですか?
女性として見てくれてるんですか?
それとも・・・
近所の子を遊園地に連れていくようなものなんですか?
やっぱり商品なんですか?

「いいえ、ちょっと、思い出しちゃって。涙が・・・・止まらないんです。」
そういって、彼女は腕を組んできた。
「しばらくこうしてていいですか?」と、腕にすがりつくマヤ・・・願ってもないことだった。
手をつなぐのを嫌がっていた彼女が今、俺の腕に顔を押付けて、泣きながら歩いている。俺には理解不能だ、彼女の行動は・・・・なんで腕は借りれるのか?
何故泣く?俺はどうしたらいい?
マヤ・・・・・・・・母親のことでも ?・・・・・思い出したのか?・・・・・・・・

腕がうずくように重かった

  さっき手折った桜の花を背広のポケットにそっとしまった・・・・・。
人ごみを避け、俺たちは道をはずれ土手の下のほうに歩いていった。








土手の下は照明が遠くになり、薄暗い河の流れが怖い。
手すりにもたれて、ふたりして ただ流れをみつめている。
時間に流され、時代に流され・・・・運命にもながされる・・・・
これから俺の人生は君とは交わらないのだろうか・・・・?
『あなたなんて大嫌い!』『許さないから!!』 『死んじゃえ!』 いくつかの昔の記憶が甦る。


腕にしがみついたままのマヤがおとなしくなった。
泣きやんだようだ。
彼女は気付いているのだろうか?さっきからずっと俺の肘が君の胸にあたっている事を・・・歩くたびに思ったより硬い感触のそれが当たるのだ。
無神経にも突き刺さる刺激におれは変になりそうだった。
君は俺を男だという事を忘れているのか?嬉しいやら悲しいやら、複雑な気持ちが彷徨う。

数分間の沈黙がつづいた・・・

「マヤ・・・・」

今日の課題を思い出して真澄が勇気をだして重い口をひらいた。
嫌われるのが怖かった自分にさよならしたかった。
どこかであきらめをつけないと、前には進めない・・・
決心して、しがみついた腕をそっとほどき、そのかわりに腕をマヤの肩にまわし軽く引き寄せた。
案の定、マヤはビクッと反応し、硬直してしまった。
こっちを見ようとしない彼女の顔を覗き込む。

「マヤ・・・・・俺は君が好きだ。」

静かな熱い視線にマヤはまたドキリとする。

「 迷惑だったらもう2度と言わない。
だから聞かせて欲しい。
君は俺の事は嫌いか?好きにはなってくれないのか?一生・・・?」

暖かい腕のなかでそんな事言われたらもう、頭は破裂しちゃいそうだった。

「あ、わ、わ、あ、・・・」

獲物を射止めるような視線に目が合うと思わず横に顔をそらしてしまった。

「・・・・嫌いじゃないです。」

「す、すきです。・・・・・」

次の瞬間、がっと 正面から抱きしめられていた。
両手で全部包みこんでくれる・・・全部。
夢かこれは??
真澄は夢が逃げていかないようにしっかりとだきしめた。

「で、でも・・・」
「でも?」
胸のなかで、くすぐるようにしゃべり続ける。

「でも、け、結婚なんて出来ませんから・・・」

(んン?〜〜??いきなりもう結婚まで考えてるのか?マヤ?・・・)
「!?どうしてだ?」
「だって、社長夫人なんて出来ませんし、私なんて絶対似合わないっ」
「それだけか?」
「???」キョトンとした目をくりくりさせる。
「だったら大丈夫だ。社長なんていくらでも辞めてやる」
「ええ====!!?」
「困るのか?」
「だって、だって、・・・・あ、・・んっと・・え、と・・・・」

あわあわ言うマヤの口をふさいだ。

もちろん俺の口で。










「あ、いい匂いがするぞ、何か買ってこよう・・・・。」と、また桜並木道を歩きだし、屋台の並ぶ道にでていた。
私をベンチに座らせて、速水さん走っていっちゃった・・・。
もうちょっと腕にくっついていたかったな・・・・
明るいところにでてくると、さっきの出来事が妙に照れくさかった。

しばらくして、両手にたくさんかかえてニコニコ速水さんが帰ってきた。
焼きイカに、焼き鳥、とうもろこしに、たこ焼きに・・・・・・・
優しいんだ・・・・速水さん・・・・・いつもそうだった。・・・・
この人が、どんな顔してたくさんのこれ抱えて、頼んだのかしら?大きな会社の社長さんなのに。おじさんイカくださいとか?言うの?あ、でも本当に辞めちゃうのかな?・・・つい憂鬱な顔になる。

「どうした?食べないのか?さ、ひとつ持って。」そう言って焼き鳥のトレーを私に渡した。

「いただきます。」

横を見ると速水さんは既に とうもろこしにかぶりついていた。
おっきな口あけて。前むいて。可愛い〜子供みたい!!
「・・・速水さんもそんなもん食べるんですね?」
「ん?悪いか?俺も子供の頃は好きだったよ、これ。
あ、君にはりんご飴がよかったかな?バナナチョコにアイスもあったよ?
あとで買いに行こうな?」とお茶目にウインクして明るく言う。
気つかってくれてるんだ・・・・
そうよね?私が楽しそうにしてるほうが速水さんもいいんだよね。
暗い顔してる場合じゃないよね?

「うん、行く!!
でも、速水さんにも子供のころがあったんだ〜意外っ!!」
「あたりまえだろ? まあ、君はいまでも子供だけどな?ははははは・・・」

ふたりして 醤油を口のまわりにつけながら ほとんどの屋台を制覇していった。
おみやげにりんご飴ふたつと、わた菓子を買って。

「はあ〜満腹です〜〜〜」と、帰り道、おなかをたたきマヤは満足そうだった。
「しかし、よく食べるな、君は・・・・」クスクス・・
「い、色気なくてすみません!!!」と真っ赤になっていた。
「色気か・・・・おれは君のそういうとこが好きなんだけどな?ハハハハ!」
と、バチンと背中を叩かれた。が、俺は嬉しかった。叩き合う仲・・・・か・・・
な〜んて浮かれていると時計はすでに9時をまわっていた。


「送っていこう」

近くに止めてあった車に乗り込んだ。







アパートの近くにはマヤが言っていたとおり桜の木があった。

「なるほど・・・・綺麗だ・・・・・今が満開らしい。まだ散った花が落ちてない。」

と見上げる速水さんの顔はぞっとするほど美しかった。カモだってそうよ、雄のほうが模様はかっこいいし・・・・。速水さんって、綺麗・・。桜よりもあなたに見とれてしまう・・・・私より長い睫毛、全部見透かされそうな茶色い瞳、手入れもしてないだろうに綺麗な皮膚・・・・きゅっと結んだ大きな唇、くせのある前髪。女性顔負けのきれいな長い指先。モデルなみの体型。センスのいいスーツ。お金持ちだし。仕事はできるし、社長だし。だめだ、わたしなんてちんちくりんで足元にも及ばないよ・・・・
ますます 遠い人だと思う。

「今日はありがとうございました。楽しかったです。」そういってペコッとおじぎした。
「ここの桜も綺麗だな?俺も楽しかったよ、今日は君とデートできて嬉しかったよ。ありがとう」
「お、お礼なんて、私のほうこそ・・・・。ごちそうさまでした。」
ご馳走様は俺のほうだが・・・なんて心のなかで笑いながら、
「どういたしまして。おやすみ、マヤ。」と、額にキスした。
キャッと小さな声をあげていた。クスッ。

・・・・もうお別れか・・・・・・・楽しい時間はいつもすぐに終わってしまう。
「じゃ、おやすみ」
玄関消える君にそう言って、俺はフッと笑って車に乗り込んだ。

「待ってください!!」

ドアが開いて、息を切らせてマヤが走ってきた。
ん?なんだ?忘れ物か?真剣な顔して??

「はぁはぁ、・・・これ、どうぞ。」

りんご飴をひとつ差し出した。真剣なまなざしで。

「君のじゃなかったのか?」

「えっと、どうしても食べてほしくて・・・嫌いでしたか?」と申し分けなさそうな顔をする。
・・・・可愛い・・・・・・俺にりんご飴なぞくれるやつは この先いまい。この俺にだぞ?
「いや、嫌いじゃないが・・・」
「あの、あの、お仕事で大変そうなのでこれを食べて、子供の頃をおもいだしたら、疲れがとれるかな?って思って・・・・。あ、すみません・・・とれないですよね?こんなんじゃ。」
            ずきゅーーーーーん!!撃死だ。

「ありがとう」
おれのはらわたは煮えくりかえりそうだった。いやべつに怒ってるわけじゃなくて、おかしくて、うれしくて、ばかばかしくて、ありがたくて、いとおしくて、
でも、頑張って普通の顔してかっこよく受け取った。

「あ、もっと疲れが とれる方法があるんだがな。」
「なんですか?」
「ちょっと、君には出来ないかな」
「え?どんな方法ですか?」
「プ==ッ、やっぱり無理だよ。」
「え〜?ひどい!!言うだけ言って見て下さい!!」
「じゃ、言うよ?」

「キスしてくれ」

はあ〜????って顔してフリーズしてた。
「どうした?やってくれないのか?」
ちょっとからかいすぎたかな?おちびちゃんには。ははっはははは・・・・

「わかりました。」
「!?」
「こうですか?」
そう言って俺の肩につかまって背伸びして、ほっぺたにキスしてきた。

今度、フリーズしたのは俺のほうだった。きっと俺の顔は真っ赤だ。

「今日はありがとうございました。これはお礼の気持ちです。
おやすみなさい〜」

そういって逃げるようにアパートに消えていった。
俺は突っ立ったまま、呆然と君のセリフを頭の中でくり返し、遠ざかる君をいつまでも見ていた・・・・・・









真澄は部屋に帰ってバタンとベッドに倒れこんだ。
枕の横のりんご飴をながめた。
マヤ・・・・・
君はいまごろ食べてるんだろうか?
袋から取り出し、赤い飴をかじった。もう20年ぶりくらいだった。

りんご飴そのものが君のようだった。
真っ赤で、甘くて、酸っぱくて、可愛くて、どこかなつかしくて・・・・
ひとかじりして、仰向けに寝転んだ。
「疲れかぁ・・・・まさかあそこで『▲▲▲してくれ』とは言えまい」
また思い出し笑いする。
俺にも春が来たって事なのか?ボーっと思う。
なまぬるい空気をこれほどまでに皮膚で実感することは無かった。
しあわせだ。
『春とはこれほどまでにウキウキするものなのか?』
ふいにおもいだしてベッドからとびおきて吊るした上着のポケットから桜の花をとりだした。

『今夜は一緒に寝ような?』
そういって小さな花を手のひらに包んで、やすらかに眠りにおちていく・・・・

その花が手に触れる感触はまるでさっきのキスのように軽い・・・。

夢のなかで また デートの続きを見ている・・・・。
『マヤ・・・・』







朝起きたら何故か口のなかに桜がはいっていた。・・・・・・・。
その頃マヤは・・・
ああ、わた菓子いっしょに食べてください、って恥ずかしくて言えなかったよ・・・・と、しぼんでいくかなしい砂糖の塊をみつめながらりんご飴をかじるのだった。
やっぱり大人だもんな・・・・速水さん・・・・
ああ、キスしちゃった・・・・
と、あの柔らかい感じを思い出すのだった。もっと硬い思っていた、彫刻みたいな顔だし・・・・。
嬉しい愛の告白よりも、私のために社長をやめると言った言葉が気になるマヤだった。何やるんだろう?辞めて?
それに自分が料理が下手とか、掃除が苦手とか、洗濯、アイロンが下手とかいったら嫌いになるのかな?困ったよん・・・・・
やっぱりどう考えても結婚は無理だった。
困るよね?速水さん・・・と、胸を痛めるのだった。

深夜、マヤは
ガバッと布団から飛び起きて重大なことに気付いた。

「ええ?まさか結婚するって言ったの?速水さん?」
「言ってないけどキスした!!」
「プ、プロポーズはまだだよね??」

また あわあわするマヤだった。




2003.04.02
<FIN>






□●号さんより□
いかがでしたでしょうか?
かなりマッスーのおしりを叩いて、ここまで出来ました。
鼻血をださせてくれるようなマッスーにはやくなって欲しいです。

数少ない私の貴重な思い出が5%、あとの95%は妄想で作品にしてしまいました。
あのときああだったら?
とか、
ああ言えば?、ああすれば?の後悔が満載の作品です。ははは。
桜が咲くたび、思い出は美化されていく自分がこわい。

かなり妄想菌にイカレてる●号でした。






□杏子より□
おほほほほほほっ、●号さん第2弾!杏子がいつまでたっても桜の話を書かないので、ちゃんと●号さんが書いてくださいました。
またまた、マッスーとマヤちゃんの独白がニタニタと笑いを誘います。
屋台関係は二人の舞台設定でも聖域に入りますからね。りんごあめにポッとなってしまった杏子でした。ポッ♪
ほのぼの・ニマニマ・ほっこりな作品、ありがとうございました!!





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